車が急ブレーキや速度を記録する。それだけなら、安全運転を助ける便利な機能に見える。FTCの行政申立書によると、米GMの事案では、その記録がデータ会社のレポートになり、保険会社の判断材料へ届いたとされる。
大事なのは「車がデータを売った」で止まらず、途中の契約を見ることだ。車両、GMの通信サービス、データ会社、保険会社。路線図を一駅ずつたどるようにこの経路を見ると、所有者がどこで止める、見る、消すを選べるのかも見えてくる。

インターネットに接続する「コネクテッドカー」が普及する中、自動車メーカーが位置情報や運転状況などさまざまなデータを収集し、第三者と共有していることが問題視されています。ゼネラルモーターズ(GM)が運転データをデータ仲介業者へ販売して保険料の算定などに使われた事例は過去にも報じられていますが、The Vergeはデータ収集がGMだけの問題ではなく、自動車業界全体に広がっていると指摘しています。
今回の登場人物
- GM: Chevroletなどを展開する米国の自動車メーカー。FTCの行政申立書で、車両から集めた情報をまとめ、外部企業と契約して提供したとされた主体だ。
- OnStar: GM車の緊急支援、遠隔操作、ナビ、診断などを担う通信サービス。車とGM側のサーバーをつなぐ窓口になる。
- Smart Driver: OnStarが提供していた運転フィードバック機能。急ブレーキなどを記録し、利用者へ運転の評価を返していた。
- テレマティクス: 走行距離、時刻、速度、急ブレーキ、位置などを通信で集め、サービスに使う仕組み。車が作るデジタル走行日誌だと思えばいい。
- LexisNexis Risk SolutionsとVerisk: 個人や運転の情報を整理し、保険会社などへ評価用レポートを提供するデータ事業者。保険会社そのものではなく、途中にいる「情報問屋」だ。
- 消費者レポート: 個人の運転履歴などをまとめ、保険の引受や更新、保険料の判断に使われうる資料。本人向けの月報とは違う。
- FTC: Federal Trade Commission、米連邦取引委員会。消費者保護などを担い、GMとOnStarにデータの集め方、使い方、消し方を改める最終命令を出した。
何が起きたか
GIGAZINEは、車載データが所有者の見えにくいところで売買される問題を、米国の事例や制度議論から紹介した。その中心例がGMとOnStarだ。
FTCは、GMとOnStarが何百万台もの車から位置や運転行動のデータを集め、十分な説明と明示的な同意なしに第三者へ提供したと申し立てた。2026年1月14日に確定した最終命令は、GMとOnStarに対し、消費者報告機関への位置・運転行動データ提供を5年間禁止した。収集や共有前の明示同意、データの開示・削除などを含む主要な義務は20年間続く。
ここから先は、すべての自動車メーカーを同じだと決めつける話ではない。FTCの命令はGMとOnStarを対象にしたものだ。話の風呂敷をむやみに広げず、GM事案で実際に確認された経路を一本ずつほどき、日本の読者が自分の契約で何を確認できるかまでを考える。
ここが本題
以下は、別記のない限り、FTCの行政申立書が示した保険リスク評価までの中心経路だ。
車両 → GM/OnStar → LexisNexisまたはVerisk → 消費者レポート → 保険会社
車から保険会社へ一直線にデータが飛んだわけではない。GMが集め、契約先のデータ会社が保険向けのレポートにし、保険会社が引受や更新などの判断で使いうる。自分用の運転成績表だと思っていたものが、途中で保険審査向けの成績表にもなった。この目的の切り替わりが利用者から見えにくかったことを、FTCは問題視した。
車は何を記録したか
FTCの行政申立書によると、保険向けのデータには、氏名、住所、メールアドレス、車両識別番号、走行日時、走行距離、急ブレーキ、急加速、シートベルトの使用、時速約129キロ超の走行などが含まれた。どの項目を渡したかは、LexisNexisとVeriskで同一ではない。
車両識別番号は、一台ごとに付く固有の番号だ。走行記録だけなら「ある車が急ブレーキをした」という情報でも、車両識別番号や氏名、住所と組み合わされれば、「誰の車で、いつ、どう走ったか」に近づいていく。
GMにはもう一つ、Wejo、後にJacobsへ位置情報などを渡す別の契約経路があった。FTCは、この経路では車両のイグニッションがオンの間、約3秒ごとの緯度・経度などが収集され、対象が約50万台から約900万台へ広がったと申し立てている。利用先には交通、インフラ、広告、小売、不動産なども含まれた。
ただし、この位置データの経路と、LexisNexisやVeriskを通る保険向け経路は分けなければならない。「位置情報も運転行動も全部、同じ契約で同じ保険会社へ流れた」とまとめると、かえって実態を見失う。
保険会社までの四駅
第一の駅は車両だ。Smart Driverに登録された車は走行中のイベントを記録し、走行終了後にGMへ送り、その後、一部が第三者へ送られた。
第二の駅はGMとOnStar。GMは2016年12月に、現在のVeriskとの契約をテレマティクスデータの交換向けに変更した。2019年8月にはLexisNexis Risk Solutionsとも契約した。
第三の駅が、この2社だ。両社は車両識別番号などを使って情報を個人や車と結び、通常は6カ月程度の走行履歴をまとめた消費者レポートを作った。
第四の駅が保険会社。保険会社はレポートを入手し、契約を引き受けるか、更新するか、保険料をどうするかといった判断に使いうる。つまり直送便ではなく、途中に「保険向けの成績表を作る会社」が入っていたわけだ。
この経路が分かると、データ取扱いについて確認すべき判断の場所も一つではないと分かる。車両で何を集めるか。GMがどんな目的で外部提供するか。データ会社が何をレポートにするか。保険会社がどう判断するか。それぞれ別の段階だ。
同意はどこにあったか
では、利用者は何に同意したのか。FTCが問題にしたのは、販売店などでの登録画面だった。
Smart Driverは、安全に関する通知や車両診断の通知と同じ画面にまとめられ、一つの承認操作で登録される設計だった。確認画面には「通知」と表示されても、Smart Driverの名前がはっきり出ない場合があったという。FTCは、多くの利用者が自分の登録を認識せず、運転データが保険上の不利益に使われうるとの説明も十分でなかったと申し立てた。
ここで、「ボタンを押したのだから同意した」で終えると大事なところを落とす。運転の振り返り機能を使うこと、安全通知を受けること、保険判断のために第三者へ提供することは、それぞれ目的が違うからだ。
FTCの最終命令が求める「積極的かつ明示的な同意」は、データの種類、利用目的、提供先、撤回方法を分かりやすく別に示したうえで、本人がはっきり了承することだ。長い利用規約の最後にある「すべて同意」とは、だいぶ顔つきが違う。
保険料にはどう響いたか
FTCは、LexisNexisやVeriskのレポートを理由に、保険への加入を断られた、契約を取り消された、保険料を引き上げられた、といった不利益通知を受けた消費者がいたと申し立てている。
問題が広く知られるきっかけの一つが、New York Timesが2024年に報じたKenn Dahlさんの例だ。Dahlさんは2022年に保険料が21%上がり、保険代理人からLexisNexisのレポートが影響したと説明された。本人が取り寄せたレポートは258ページあり、6カ月の640回の走行を含んでいた。
数字の迫力は大きい。ただし、21%の上昇すべてがGM由来データだけで起きたと、記事だけから確定することはできない。個別の保険料には地域、車種、補償内容、事故歴など複数の要素が関わるからだ。
米国内でも事情は一様ではない。カリフォルニア州司法長官は2026年5月、GMが2020年から2024年に州内の数十万人のデータをLexisNexisとVeriskへ売ったとして、裁判所の承認を前提とする1,275万ドルの和解案を発表した。一方、同州では運転データを保険料設定に使えないため、州内ドライバーがこの販売による保険料への直接の影響を受けたとは確認していない。国が同じでも、州のルールで出口が変わるのだ。
止める・見る・消す
FTCの最終命令後、米国のGMとOnStarには、利用者がデータを制御するための複数の義務が課された。
まず、位置や運転行動データを集め、使い、共有する前に明示的な同意を得る。利用者は同意を撤回し、OnStarの登録を解除できる。対応する車では正確な位置情報を停止でき、位置・運転行動データの収集から離脱する手段も必要になる。
次に、自分のデータを見て、削除を求める仕組みだ。命令の対象には、アルゴリズムで作った派生データも含まれる。GM側は過去にデータを渡した第三者にも削除を要請しなければならないが、第三者については削除を求める義務であり、実際の消去完了までを保証する条文ではない。法令上の保存義務などがあれば例外も残る。
緊急通報、盗難時の支援、利用者自身が求めた応答、法的な命令への対応にも限定的な例外がある。安全機能を残しながら、商業利用は別に選べるようにする設計だ。全部オンか全部オフか。そんな大ざっぱなスイッチ二択にしないところが重要だ。
また、データを後から消せることと、最初から必要以上に集めないことは同じではない。米議会に提出されたDRIVER Actは、車載データへのリアルタイムアクセスと共同管理、対象データ販売の拒否、車内に保存されたスマートフォンなど由来の利用者データを削除しやすくすることを求める法案だが、まだ成立していない。収集後の制御を増やす案であって、あらゆる収集を最小限にする法律がすでにできたわけでもない。
日本ではどう読むか
ここで米国の話を、そのまま日本へコピーするのは危ない。FTCの命令はGMとOnStarに対するものだ。米国でもカリフォルニア州と他州で保険利用の扱いが異なる。日本には日本の個人情報保護、保険料率、各社の利用規約がある。
日本でも、本人の同意を前提に車両データを保険へ使う商品はある。HondaはHonda CONNECTの会員から第三者提供への同意を得たうえで、提携保険会社へ一部の車両データを提供する仕組みを案内している。損保ジャパンも、対象車のメーカーを経由してデータを使うコネクテッドカー向け商品を示している。
これは、車両データと保険の組み合わせ自体が悪いわけではないことを教えてくれる。走行距離や安全運転を割引に反映したり、事故時の連絡を助けたりする価値はある。問題は、何を、誰へ、何の目的で渡すかを本人が理解し、選べるかだ。
日本の読者が自分の契約で見るなら、五つを確認したい。集めるデータ項目、提供先、利用目的、保存期間、解除・削除方法だ。車の購入契約だけでなく、コネクテッドサービス、スマホアプリ、保険の特約を別々に見る。車の鍵は一本でも、確認する契約は一枚ではない。ちょっと面倒だが、ここは別冊も開こう。
家族共用車、社用車、レンタカー、中古車では、サービス契約者と実際の運転者が違うこともある。誰が同意し、誰の運転が評価され、誰が削除できるのかは、なお見えにくい課題だ。
GM事案から持ち帰るべきなのは、「つながる車は怖い」という結論ではない。運転データが車から保険判断へ届くまでには契約の駅があり、各駅に説明と選択肢が必要だということだ。経路が見えれば、便利さを残しながら、どこで止めるかも考えられる。
Sources
- FTC「GM and OnStar final order」
- FTC Administrative Complaint
- FTC Final Order
- California Attorney General「GM settlement」
- The Verge「Your car is selling your data」
- New York Times「Automakers Are Sharing Consumers’ Driving Behavior With Insurance Companies」
- GovInfo「H.R.6687 DRIVER Act」
- GM Privacy Statement
- Honda「Honda CONNECTを活用した新たな保険サービス」
- 損保ジャパン「コネクテッドカー向けサービス」
- GIGAZINE「あなたの車はあなたのデータを販売している」