中部電力は2026年9月14日、浜岡原発の審査データをめぐる外部調査報告書を公表し、3号機と4号機の申請を取り下げると発表した。社長、会長らも辞任する。ニュースだけ追うと、大きな区切りがついたように見える。
けれど、安全審査の信頼回復はまだ終わっていない。辞任は経営責任への対応、申請取り下げは今ある申請を終わらせる手続きだ。審査資料を作る仕組みが直ったと証明する仕事は、その後にも残る。今回は、この三つを混ぜずに見ていこう。

浜岡原発の再稼働審査をめぐるデータ不正問題を受けて、中部電力は勝野哲会長と林欣吾社長が9月末で辞任すると発表。水野明久相談役も退任します。なぜ中部電力はデータ不正に手を染めたのか。14日に公表された外… (1ページ)
今回の登場人物
- 中部電力: 浜岡原発を運営し、安全審査に必要な解析資料を作って国へ提出する会社。今回、資料の作り方と審査での説明に食い違いが見つかった。
- 原子力規制委員会: 原発が規制基準に合うかを審査する国の機関。中部電力の申請書や説明資料を信用できないとして、2026年1月から3・4号機の審査会合などを行っていない。
- 基準地震動: 原発の耐震設計や安全評価で基準にする、想定上の地震の揺れ。次に来る地震の予報でも、建物が壊れる境界値でもない。
- 統計的グリーン関数法: 小さな地震の性質などを使い、大きな地震で起こりうる揺れ方を複数計算する方法。条件の与え方で波形が変わるため、候補の作り方と選び方を記録することが大切になる。
- 代表波: 複数作った揺れの波形から、施設の評価などに使う代表として選ぶ一つの波形。今回の問題の中心だ。
- 設置変更許可申請: 新しい規制基準に対応するための施設変更について、国の許可を求める申請。これを取り下げることは、調査の終了や安全確認の完了を意味しない。
何が起きたか
TBS NEWS DIGが報じたのは、外部調査報告書の公表、3・4号機の申請取り下げ、経営トップの辞任が同時に動いたというニュースだ。
中部電力は、申請書とこれまでの審査説明の信頼性に重大な疑いが生じ、現在の申請を維持できないと判断した。林欣吾社長、勝野哲会長、水野明久相談役は9月30日付で辞任する予定だ。一方、会社は将来の再申請の意向も示している。ただし、時期も、規制側が審査を再開する条件も決まっていない。
ここで押さえたいのは、審査が申請取り下げによって初めて止まったわけではないことだ。原子力規制委員会は1月14日、申請書と説明資料の信用性が損なわれ、審査できないとして、審査会合やヒアリングなどを行わない方針を決めていた。取り下げは、その状態にあった申請を会社側が終了させる判断なのである。
ここが本題
では、トップが辞め、疑いのある申請も引っ込めるのに、なぜ信頼問題は残るのか。
答えは、規制委員会が信用する必要があるのは、社長の名前や申請書の表紙ではなく、その中身を作る一連の工程だからだ。元データをどう用意したか。どの条件で計算したか。候補から何を選んだか。委託先へ誰が何を指示したか。社内の別部門が確かめたか。疑問を示した人の声が届いたか。ここまでつながって初めて、提出された数字を検証できる。
だから今回の問題は、間違った一つの数字を赤ペンで直せば終わる話ではない。計算から提出までの道筋が、後からたどれる状態だったかが問われている。
代表波はどう選ばれたか
中部電力は2019年の審査で、統計的グリーン関数法により20個の波形を作り、その20波の平均的な性質に最も近い波を代表波にすると説明していた。
ところが、2026年3月の法定報告では、説明と異なる二つの方法が確認された。
一つ目の「手法1」は、乱数の初期値や位相特性などの条件を変えた20波の組を多数作り、その中から一組を選ぶ方法だ。報告書には、10通りの条件と別の10通りの条件を組み合わせ、100組、合計2,000波を計算する例が出てくる。しかし、不採用になった計算が委託先の成果物に残っていない場合があり、後から「どの候補を比べ、なぜこの組にしたか」を完全には復元できなかった。
二つ目の「手法2」は、平均に最も近い波ではないものを先に代表波として選び、その波が20波の平均に最も近くなるよう、残り19波を組み合わせる方法だ。「20波を作ってから代表を選ぶ」という説明とは、順序が逆になっている。
3月時点では、調査対象225ケースのうち、手法1が少なくとも105ケース、手法2が資料上少なくとも3ケース確認された。手法2は聞き取りでは2018年から2019年に約80ケースで行ったとの説明もあった。一方、77ケースは資料だけでは分類できなかった。これらは途中段階の数字で、最終確定数として扱うことはできない。
20本から1本を選ぶ話に見えるけれど、本体は「その20本をどう用意したのか」だ。外部調査委員会も、複雑な計算と選定を「改ざん」や「過小評価」の一語だけで片づけると実態を誤ると注意している。確認できるのは、規制側への説明と異なる手法が使われ、手法2では意図的な選定が行われたことと、その過程を十分に追えないケースがあることだ。そこから事故の確率や設備の実際の損傷まで推測してはいけない。
数字より深い問題
安全審査では、規制委員会が電力会社の全計算を一から代行するわけではない。事業者が責任を持って資料を作り、元の計算や判断記録を示せることが前提になる。その前提が崩れると、一つの値だけではなく、同じ工程で作られた説明全体をどこまで信用できるか確認し直さなければならない。
たとえば、最終的な波形が同じだったとしても、候補をすべて残し、決めた手順で選び、別の人が確認した場合と、候補の一部が残らず、説明と違う順序で選んだ場合では、審査する側が持てる確信は同じではない。結果だけでなく、結果へ着く道も審査の材料なんだ。
中部電力の外部調査委員会は、原子力土建部門に独自の正当化の考え方があったこと、専門性の高さから部門外の監視が難しかったこと、委託先への細かな指示がメールや会議などで行われ、正式な記録や承認が弱かったことを挙げた。
さらに、部門外の専門家や内部通報の仕組みは存在したのに、複数の警告が是正につながらなかった。制度の看板はあっても、止める力を持っていなかったということだ。
誰の責任なのか
外部調査では、経営トップが具体的なデータ操作を直接指示したとは認定されていない。ここは事実以上に膨らませてはいけない。
ただし、「直接指示していない」と「経営上の問題がない」は別だ。外部調査委員会は、経営陣が審査に時間がかかる理由を十分理解しないまま原子力土建部門を叱責し、その圧力が不適切な行為を誘発しうる一因だったと評価した。また、専門部門の外から確認する仕組みや、内部通報を是正へつなげる仕組みも十分に機能しなかった。
個人が行った選定、管理職による確認、別部門の監査、経営による監督は、それぞれ違う責任を持つ。一人の実行者か一人のトップへ全部まとめてしまうと、次に同じことを止めるための設計が見えなくなる。
中部電力は、原子力部門の組織変更、品質保証機能の強化、外部人材を入れた監査、外部弁護士らによる通報受付などの方向を示した。ただし、組織名や窓口を変えただけで有効性が証明されるわけではない。実際の案件で異論を拾い、専門部門の判断を止め、記録を残せるかまで見なければならない。
取り下げで残るもの
申請取り下げで終わるのは、現在審査中の3・4号機の設置変更許可申請などだ。申請ファイルを提出箱から戻しても、その作り方を調べる手続きまで消えるわけではない。
中部電力は9月14日時点で、原子炉等規制法67条に基づく報告について、直接原因と根本原因を分析し、再発防止策を改めて報告するとしている。必要に応じて追加調査も行う。規制委員会による品質管理面の規制検査も続く。外部報告書の公表は重要な一歩だが、法定の確認が完了したという発表ではない。
将来、新しい申請を出すなら、解析の元データ、全候補、選定理由、委託先への指示を追跡できる形にし、社内外で独立して確認する必要があるだろう。そのうえで、新しい申請を規制委員会が審査可能と判断して初めて、審査会合などが動き出す。ただし、これは現在確認できる未完了作業から見た道筋であり、規制委員会が正式な再開チェックリストを公表したわけではない。
次に見るべきもの
これから大切なのは、辞任した人数ではない。まず、225ケースの最終的な整理と、個別の設備評価へどんな影響があったか。次に、根本原因と再発防止策に対する規制委員会の検査結果。そして、計算候補や選定理由を後から再現できるようになったかだ。
地元への説明でも、「安全です」「反省しています」という大きな言葉より、どの記録を残し、誰が独立して確認し、異論が出たら誰が止めるのかという具体策が判断材料になる。
トップの辞任は責任の取り方で、申請取り下げは疑義のある手続きをいったん終える判断だ。安全審査の信頼回復は、同じ問題を防ぐ工程が作られ、実際に働くと外から確認されて初めて前へ進む。ここを三つに分けられれば、このニュースの「まだ終わっていない部分」を自分の言葉で説明できるはずだ。