食料品の消費税率を、2027年4月から2年間だけ1%にする。政府は9月15日、その方針を大綱として閣議決定しました。ところが、税収が年およそ5兆円減る見込みなのに、具体的な財源は年末までに決めるといいます。

「年5兆円の穴を開けるのに、埋め方はあとで確認?」と首をかしげたくなるところです。ただし、今回決まったのは税率をその場で変える法律ではありません。政策の設計図を政府内で確定し、法案と予算をこれから組み立てる段階です。本題は、財源が未確定でもなぜ政策決定を先へ進められるのか、です。

消費減税の大綱決定 5兆円の財源は?来年4月から「食料品消費税が1%」
消費減税の大綱決定 5兆円の財源は?来年4月から「食料品消費税が1%」

政府は食料品の消費税を1%に引き下げる税制改正大綱を閣議決定しました。年間5兆円にも上る財源はまだ決まっていません。■5兆円の財源は? 食料品の消費税減税などを盛り込んだ税制改正大綱が15日午後に閣

今回の登場人物 ​

  • 消費税の軽減税率: 標準税率10%に対し、現在は酒類と外食を除く飲食料品などに8%を適用する仕組みです。今回の案は、この飲食料品を期間限定で1%にします。
  • 大綱: 政府が政策の骨格や進め方をまとめた文書です。今回の大綱は閣議で決まりましたが、それ自体が国民に新しい税率を直接適用する法律ではありません。
  • 閣議決定: 首相とすべての国務大臣で政府の方針を正式に決める手続きです。政府内の意思は固まりますが、国会が法律を成立させたことにはなりません。
  • 特例公債: 税収などで足りない歳出を埋めるための国債で、一般に「赤字国債」と呼ばれます。政府は今回の減収分を特例公債に頼らず確保する方針です。
  • 租税特別措置: 特定の政策目的のため、通常とは違う減税や控除を設ける仕組みです。見直せば財源候補になりますが、どの措置をいくら見直すかはまだ決まっていません。
  • 税外収入: 税金以外の国の収入です。国有財産の売却収入などが含まれますが、毎年ずっと続く収入とは限りません。

何が起きたか ​

テレビ朝日は9月15日、政府が食料品の消費税率を2年間、1%へ引き下げる大綱を閣議決定したと報じました。国税庁が公開した制度案では、対象期間は2027年4月1日から2029年3月31日までです。

対象は、現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品のうち、酒類と外食を除く部分です。新聞は現在の軽減税率の対象ですが、今回の1%案では8%のままです。「食べ物ならレストランも全部1%」「軽減税率の対象が丸ごと1%」という話ではありません。

政府は減収額を年およそ5兆円、2年間でおよそ10兆円と見込みます。そして特例公債には頼らず、税収の上振れ、歳出と歳入の見直し、租税特別措置や補助金の見直し、税外収入などで確保する方針を示しました。ただし、各項目で何円ずつ捻出するかは未決定です。年末の予算編成と税制改正の過程で具体化するとしています。

決まったこと、決まっていないこと ​

まず、棚を三つに分けましょう。ここを混ぜると、ニュースの買い物かごが急に重くなります。

決まったのは、政府が食料品の税率を1%にしたいという方針、2027年4月から2年間という期間、酒類と外食を外す対象範囲、そして赤字国債に頼らないという原則です。閣議決定なので、「担当者が検討中と話した」より一段強く、内閣全体の公式方針です。

決まっていないのは、約5兆円をどの財源からいくらずつ持ってくるかです。税収の上振れは、景気などで当初見込みより税収が増えた分。租税特別措置や補助金の見直しは、現在誰かが受けている支援を縮める可能性があります。名前だけ並べても、足し算が5兆円になるとは限りません。

そして、まだ法案化前です。国税庁も特設ページで、法案が国会に提出され、審議を経て成立することを前提に案内していると明記しています。9月16日朝の時点では、税率1%は施行済みの制度ではなく、国会で修正されたり、成立しなかったりする余地も残っています。

大綱は「法律の予約票」ではない ​

では、財源が固まっていないのに閣議決定してよいのでしょうか。手続きの上では、政策の方向を決めることと、税率を法的に変えることと、毎年度の予算を組むことは別の行為です。

大綱は、政府が「この設計で法案や予算を準備する」と決める文書です。閣議決定には政府内を束ねる重みがありますが、法律の条文を自動で書き換える力はありません。消費税率を変えるには、政府が税制改正法案を作り、国会へ提出し、衆議院と参議院の審議を経て成立させる必要があります。

財務省が説明する通常の税制改正も、要望や議論、与党の大綱、政府の大綱、法案提出、国会審議という段階を踏みます。つまり政策の骨格が先、細かい条文と国会の議決が後、という順番そのものは珍しくありません。家を建てる前に間取りを決めるのと同じです。ただし今回は、総額の大きな財源欄がまだ鉛筆書きなので、そこが強く問われています。

「赤字国債に頼らない」は解決ではなく制約 ​

「赤字国債を使わない」と決めれば、財源問題が片づくわけではありません。それは、使える手段を一つ外したという制約です。残る選択肢は、大きくいえば収入を増やすか、別の支出や減税を削るか、一時的な資産や収入を使うかです。

たとえば税収の上振れは、すでに毎年の支出のあてにできる安定財源とは限りません。税外収入も、一度だけ得られるお金なら、2年間の減税には使えても恒久的な政策の財源には向きにくい。補助金や租税特別措置を削れば、そこを利用していた企業や家計に影響が出ます。財源は「どこかに落ちている5兆円」ではなく、別の政策との優先順位の付け直しです。

だから年末までの作業で見るべきなのは、候補の名前ではなく金額と持続性です。各財源はいくらか。すでに別用途が決まっていないか。1回限りか、2年間続くか。減らされる側にどんな影響があるか。政府がこの表を示して初めて、「赤字国債に頼らない」という約束を計算で確かめられます。

1%は「1%だけ安くなる」ではない ​

数字の読み方にも注意が必要です。現在8%の税率を1%にする案なので、下がる幅は1ポイントではなく7ポイントです。税抜き1000円の対象食品なら、消費税分は80円から10円へ下がる計算です。ただし、実際の店頭価格が必ず70円下がるとは限りません。仕入れ価格や人件費、値付けは店ごとに違うからです。

年約5兆円という数字も、全世帯へ同額を配るという意味ではありません。食料品をいくら買うか、外食と持ち帰りのどちらを使うかによって負担軽減額は変わります。減税の効果を評価する際は、平均額だけでなく所得層ごとの恩恵と、財源見直しの負担が誰へ向かうかを一緒に見る必要があります。

この点でも、税率だけ先に決め、財源を後から詰めることは「家計に得か損か」の最終計算をまだできない状態だと分かります。レシート側は見え始めた一方、国の帳簿側は年末まで未完成です。

先に方針を決める意味 ​

政府が骨格を先に決めると、国税庁、財務省、事業者は準備を始められます。税率変更は、スーパーのレジ表示だけの話ではありません。請求書、会計ソフト、価格表示、仕入れ時に支払った消費税を差し引く計算、事業者への周知まで広く関係します。2027年4月の開始を目指すなら、設計図を早く示す実務上の理由はあります。

一方、先に開始時期と1%という目立つ数字を掲げると、財源をあとで合わせる政治的な圧力も強まり得ます。法案提出後に国会が判断できるとはいえ、「もう決まった話」という空気が先行すれば、財源の選択肢を丁寧に比べにくくなる危険があります。

したがって、今回の決定は「財源なしでも減税できる」という意味ではありません。「政府は減税の設計を先に固定し、財源の具体化を年末と法案審議へ送った」という意味です。設計図にハンコは押した。でも金庫と工事許可は、まだ別の机にあります。

これから何を確認するか ​

次の節目は、年末の予算編成と税制改正の大綱、そして国会へ出る法案です。そこでは、約5兆円の内訳、2年分を通じた財源の確かさ、税率を元へ戻す2029年4月の扱い、事業者への実務支援を確認する必要があります。

開始時期も、現時点では法律で確定した日ではありません。法案の成立時期や準備状況によって変わる可能性があります。政府の説明と国会で成立した条文が同じかを最後まで見比べる。税制のニュースでは、この「最後まで」がかなり大切です。

まとめ ​

食料品の消費税率を1%にする方針は閣議決定されましたが、税率を変える法律はまだ成立していません。財源も、「赤字国債に頼らず複数の見直しで確保する」という原則までで、約5兆円の具体的な内訳は年末へ持ち越されています。

財源が未確定でも政策決定を進められるのは、大綱、法案、予算が別の段階だからです。ただし、進められることと、財源の説明が十分なことは別です。次に問うべきは「減税するか」だけではなく、「誰のどの支出や優遇を動かし、5兆円をどう積み上げるのか」です。

Sources ​