薬剤費が1,000円で、窓口負担が3割の人に「さらに25%」と聞くと、300円に250円を足して550円。そう計算したくなるよね。ところが、新しい仕組みでは、消費税を入れる前の制度上の内訳は475円になる。特別料金には別途消費税がかかるので、実際の支払い例はもう一段先まで見る必要がある。いきなり算数のひっかけ問題みたいだけれど、制度の肝は計算より前にある。
そもそも同じ薬でも、追加負担になる処方と、ならない処方がある。見るのは薬の名前だけではない。「誰に」「何の治療として」「どのくらいの期間」使うのか。では、その事情を医療機関と薬局はどう受け渡すのか。ここを順番に見ていこう。

厚生労働省は市販薬と効果の似ている「OTC類似薬」について、患者に費用の追加負担を求める新たな制度の対象から子どもやがんなどの治療を外す案を取りまとめました。 解熱鎮痛剤などを含む「OTC類似薬」の
今回の登場人物
- OTC医薬品:薬局やドラッグストアで、医師の処方箋なしに買える薬。「OTC」は「Over The Counter」の略で、店頭で受け取るという意味だ。
- OTC類似薬:OTC医薬品と成分や使い方が似ている医療用医薬品。医師が処方し、健康保険を使う薬である点は変わらない。
- 厚生労働省:制度の条件や現場の運用方法を設計する役所。対象薬のコードや、判定を助ける資料も示す予定だ。
- 医療機関と薬局:医療機関は処方の中身を見て対象かどうかを判断し、その結果を処方箋で薬局へ伝える。薬局は表示を確認し、患者に説明して料金を受け取る。
何が起きたか
テレビ朝日は2026年9月16日、OTC類似薬に追加負担を求める制度案が、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で了承されたと報じた。制度の枠組みは同年成立の改正健康保険法に入り、2027年3月の開始が予定されている。
対象候補は、2026年8月1日時点で77成分、1,042品目。成分と投与経路が同じで、1日の最大量も市販薬と違わない医療用医薬品を機械的に拾った数だ。湿布、保湿剤、アレルギー薬など、身近な薬も含まれる。
対象となる処方では、薬剤費の25%を保険外の「特別の料金」として払い、残りの75%に通常の1〜3割の自己負担をかける。ただし、子どもや公費負担医療の利用者、入院中の患者などには除外条件がある。さらに、同じ薬でも治療目的や使い方によって除外される場合がある。
ここで話を「薬のリストができました」で終えると、大事なところを丸ごと置いてくる。リストは判定のスタート地点であって、ゴールではないんだ。ここから先は、見る順番さえ押さえれば大丈夫だ。
ここが本題
追加負担を決めるのは、薬名だけではない。医療機関が、患者の年齢や制度上の条件、何の病気に使うのか、その病気と治療がどう結びついているか、どのくらい続けて使う必要があるかを確認する。最終的には医師が判断し、その結果を処方箋で薬局へ渡す。
つまり判定するのは「この箱の薬は何か」だけではなく、「この患者に、何の治療として出された薬か」だ。空港の手荷物検査で、スーツケースの色だけ見て通すか決めないのと同じである。見るべき札が何枚かある。
最初の門は薬のリスト
まず医療機関は、処方しようとしている薬が対象の77成分、1,042品目に入るかを薬剤コードで確かめる。入っていなければ、今回の特別料金の話はそこで終わり。入っていれば、次の確認へ進む。
この1,042品目は、制度開始後も永久に石へ刻まれる数字ではない。市販薬との対応関係や承認状況によって対象は見直されうる。だから現場では、薬の通称を思い出して「たしか対象だったはず」とやるのではなく、国が示すコード一覧で照合する設計になっている。
ただし、リストに載った瞬間に全員が追加負担、ではない。ここは大事なので、もう一度言っておこう。薬がリストにあることと、その処方が追加負担になることは同じではない。
次の門は治療目的
分かりやすい例が、アレルギー症状に使うフェキソフェナジンだ。医療用医薬品にはアレルギー性鼻炎だけでなく、じんましんや皮膚のかゆみに対する効能もある。一方、対応する市販薬の効能は鼻のアレルギー症状に限られる。
そのため、同じ成分でも、じんましんや皮膚のかゆみの治療として処方するなら「市販薬では代わりを賄えない」と判断され、特別料金の対象外になる。薬の成分欄は同じでも、治療の行き先が違うわけだ。
がんや国が指定する難病の患者にも、病名だけで自動的に丸ごと除外されるわけではない。その病気と関連する治療なら除外されるが、関係のない症状への処方は追加負担の対象になりうる。患者という大きな箱に「がん」と札を貼って終わりではなく、今回の薬が何の治療につながっているかを見る。
さらに見るのは患者と期間
年齢や受けている医療制度も確認する。18歳になった後の最初の3月31日までの子ども、生活保護などの医療扶助を受ける人、国の公費負担医療の対象者は除外される。入院中の処方や退院時処方も対象外だ。
手術、処置、検査に伴って必要になる薬は、14日分まで除外される。妊娠・授乳中についても、市販薬の注意書き上、自己判断での使用になじまない一定の場合は除外条件に入る。
長期使用にも道がある。厚労省案では、年間を通した使用が医学的に必要と医師が判断する場合は対象外となる。約50週の使用実績は客観的な目安だが、「50週たつまで待機してください」という制度ではない。おおむね半年以上の使用実績などを踏まえ、医師が一年を通じた必要性を判断できる場合もある。
たとえばアトピー性皮膚炎で、症状が落ち着いた後も再発を防ぐために外用ステロイド薬を計画的に使う治療は、医学的に必要な通年使用として扱いうる。一方、重い変形性膝関節症への貼り薬や、アトピー性皮膚炎以外への保湿剤には、2028年度末までの経過措置が設けられる。ずっと同じ扱いと決まったのではなく、移行のための期限付きだ。
判定は処方箋で運ばれる
さて、診察室での判断を薬局はどう知るのか。ここで処方箋が、ただの薬名リストから「判定結果の連絡票」へ少し仕事を増やす。紙一枚だが、今回はなかなか働き者である。
医療機関は、対象薬について特別料金の対象なら新しい欄に「○」、除外なら「―」を記す。医師は薬のコード、患者の条件、効能、病気との関連、使用期間を確認して最終判断する。医療機関は除外理由を診療報酬明細書にも記録する。
薬局は処方箋の表示を確認し、対象なら患者へ説明して特別料金を受け取る。表示が不明だったり、薬局で得た情報と食い違ったりすれば、医療機関へ問い合わせる。薬剤師が窓口で病気を一から診断し直す仕組みではない。診察時の判断を処方箋で運び、薬局が会計につなぐ流れだ。
厚労省は、対象薬コードの一覧、市販薬では対応できない効能や病気のリスト、請求例、紙の確認票、Q&Aを示すとしている。とくに、がん・難病との関連や通年使用の必要性はコンピューターだけで自動判定できない。現場の判断をそろえる資料が、制度の実用部分になる。
3割と25%は足し算しない
さて、冒頭の1,000円へ戻ろう。数字が二つ出てきたが、慌てなくていい。この例は薬剤費だけを単純化したもので、診察料や調剤料などは別に考える。
これまで3割負担なら、1,000円の30%で300円だった。新制度では、まず1,000円の25%、250円が保険外の特別料金になる。残った750円に3割負担をかけるので225円。消費税を入れる前なら、合計は250円+225円=475円だ。
この制度上の内訳だけなら負担割合は47.5%。55%ではない。ケーキの25%を先に切り分けた後、残りのケーキの30%を切るので、元のケーキの55%にはならないわけです。
ただし、特別料金には別途消費税がかかる。標準税率10%で単純化すれば、特別料金250円は税込み275円となり、225円と合わせて500円、薬剤費の50%だ。従来の300円からは200円増え、約66.7%増になる。実際の窓口額は薬価や端数処理などでも変わるので、475円は「消費税を入れる前の計算」とラベルを付けて扱おう。
低所得だからという理由だけの一律除外は、最終案には入っていない。生活保護の医療扶助など既存の対象者は除外されるが、それとは別に所得区分だけで免除する仕組みではない。この点は負担能力をめぐる議論として残る。
それで何が変わるのか
患者にとって大切なのは、「対象薬の名前を覚えて自分で判定する」ことではない。同じ薬でも処方の事情で扱いが変わるので、診察時に治療目的や使用期間が正しく共有され、その判断が処方箋に正しく載ることだ。疑問があれば、自分の処方がなぜ対象または対象外なのかを医療機関や薬局に確認する。この記事は個別の医療判断をするものではなく、制度の流れを説明するものだ。
医療現場にとっては、単にレジへ新しい料金ボタンを一つ足す話でもない。医師の医学的判断、処方箋の記載、薬局での確認、請求データが一本につながらなければならない。開始までに国が出すコード一覧やQ&Aの具体性、古い処方箋様式からの移行、消費税や端数処理を会計へ反映する方法など、まだ確認すべき実務もある。
制度の公平さは、除外条件が紙に書いてあるだけでは測れない。同じ事情なら、どの医療機関でも同じように判定され、患者にも理由が分かるか。2027年3月までに見るべきなのは、薬の長いリストだけでなく、そのリストを人の治療へ当てはめる運用なのである。
まとめ
OTC類似薬の追加負担は、薬名だけで決まらない。まず対象薬リストを確認し、次に「誰に」「何の治療として」「どのくらい使うか」を医療機関が判断する。その結果を処方箋で薬局へ渡し、薬局が説明と会計を担う。
そして、3割負担に25%をそのまま足して55%、でもない。薬剤費1,000円なら、特別料金250円と、残り750円の3割である225円を足し、消費税前で475円。特別料金に標準税率10%の消費税を加える単純例なら、支払いは500円になる。高校生が友達に説明するなら、この二つで十分だ。「薬ではなく処方の文脈を見る」「25%を先に分け、残りにいつもの負担率をかける」。制度の骨組みは、そこにある。