マイナ保険証を持って窓口へ行ったのに、「その画面を印刷してきてください」と言われる。紙を減らすためのデジタル化ではなかったのか。そう戸惑うのは、利用する人の理解が足りないからではない。

いや、ここが大事なんです。マイナ保険証は、医療保険の情報がカード表面に全部書いてある「デジタル保険証」ではない。情報を照会するための鍵に近い。そして難病の医療費助成を更新する自治体窓口には、医療機関と同じ鍵穴があるとは限らない。石川県で残った紙の背景には、この制度とシステムの分かれ目がある。

「マイナ保険証だけでは手続きできない」難病患者に紙の書類を求め続ける石川県、隣県は「画面を見せるだけ」で完了|FNNプライムオンライン
「マイナ保険証だけでは手続きできない」難病患者に紙の書類を求め続ける石川県、隣県は「画面を見せるだけ」で完了|FNNプライムオンライン

指定難病の患者が医療費助成を受けるための更新手続きで、マイナ保険証への移行後も紙の書類提出が求められ、患者や家族から戸惑いの声が上がっている。2026年9月28日の石川県議会でこの問題が指摘された。従来の保険証が廃止されたにもかかわらず、マイナ保険証だけでは手続きができず、改めて資格確認書などの取得を求められるケースが発生。「本末転倒だ」との批判も出る中、石川県の対応と、隣県や国の指針との間に食い違いも見えてきた。指定難病の患者が医療費の助成を受けるために必要な「受給者証」。年に1回の更新手続…

今回の登場人物 ​

  • マイナ保険証:健康保険証として利用登録したマイナンバーカード。医療機関などがオンラインで保険資格を確認する入口になるが、カード自体に最新の資格情報が印字されているわけではない。
  • 指定難病の医療費助成:国が指定する病気について、重症度や所得などの条件を満たす人の医療費負担に上限を設ける制度。2026年4月時点の指定難病は348疾病ある。
  • 受給者証:助成の対象だと認定された人に交付される証明。石川県では原則として年1回、更新の申請が必要になる。
  • マイナポータル:本人が行政情報を確認できるオンライン窓口。加入する医療保険の資格情報も表示できる。
  • 支給認定基準世帯員:助成額を決めるときの「世帯」のメンバー。住民票上の同居人全員とは限らず、原則として患者と同じ医療保険に入る人を単位にする。
  • PMH:Public Medical Hub、つまり自治体の医療費助成情報を医療機関などへつなぐための仕組み。マイナ保険証で公費負担の資格も確認しやすくする取り組みだ。

何が起きたか ​

FNNプライムオンラインは10月1日、指定難病の医療費助成を更新する際、石川県で紙の資格確認書などを求められた家族の相談が、9月28日の県議会厚生文教委員会で取り上げられたと報じた。

県の健康福祉部長は、マイナ保険証を持つ人にも紙の健康保険の資格確認書を提示してもらうのは「国のルール」だという趣旨で答弁した。一方、報道では、隣の富山県と福井県ではマイナポータルの資格情報画面を窓口で見せて手続きできるとされた。国の案内にも、条件によって書類を省略できる扱いがある。

ここは少し丁寧に見たい。石川県の現在の案内は、マイナ保険証を使う人の確認資料として、資格確認書だけでなく、マイナポータルの「医療保険の資格情報」を印刷したものも挙げている。つまり、県が公表している運用は「資格確認書を新しく取る方法だけ」ではない。ただし、画面をその場で見せるのではなく、印刷物を提出する形は残る。

では、同じ国の制度なのに、なぜ県境を越えると紙の扱いが変わるのか。答えは、マイナ保険証の機能と、難病助成の審査に必要な情報が、ぴたりと同じではないからだ。

カードは情報そのものではない ​

病院の受付では、カードリーダーにマイナンバーカードを置き、オンライン資格確認の仕組みを通じて、その時点の保険資格を照会する。カードは「私はこの情報の本人です」と確かめる鍵だ。保険者名や記号・番号が、昔の保険証のようにカード表面へ印刷されているわけではない。

だから、カードだけを目で見ても、自治体の担当者は加入先を確認できない。窓口に同じカードリーダーと接続先がなければ、鍵を持参しても扉を開けられない。これは「マイナンバーカードが偽物扱いされた」という話ではなく、病院の資格確認と自治体の助成申請が別の業務として作られてきたという話なのだ。

さて、ここで名前の似た紙も整理しておこう。「資格確認書」は、マイナ保険証を持たない人などが医療機関で単体で使える書類だ。一方、マイナ保険証を使う人へ交付される「資格情報のお知らせ」は、原則としてそれだけで受診するものではない。さらにマイナポータルから表示・印刷できる「医療保険の資格情報」もある。似た名前が三つ並ぶ。一度で区別できなくても無理はない。だからこそ、窓口側の説明が欠かせない。

難病助成は「本人の保険」だけでは終わらない ​

ちょっと待って、話はもう一段あります。難病助成では、患者本人が保険に入っているかを確認するだけでなく、自己負担の上限額を決めなければならない。

その計算に使う単位が、支給認定基準世帯員だ。たとえば会社員の健康保険なら、患者と同じ保険に加入する被保険者や被扶養者を確認する。国民健康保険なら、同じ国保に入る家族が対象になりうる。自治体は誰が同じ医療保険のグループなのかを確かめ、所得区分を判定する必要がある。

つまり、患者一人のカードを読み取れば全部終わる、とは限らない。家族分を含む資格情報や、保険の変更時期を確認する場合もある。医療機関の受付で問うのは主に「今日、この人はどの保険で受診できるか」。助成の更新で問うのは「誰を同じ保険単位として扱い、どの負担上限を適用するか」。同じ「保険の確認」に見えても、答える問題が違うんです。

もちろん、問題が違うから利用者に紙を用意してもらうしかない、とまでは言えない。必要な情報を行政側で安全に取得できれば、提出を減らせる余地はある。まさにその余地が、自治体による運用差になって表れている。

「国のルール」は一枚岩ではない ​

厚生労働省の資料では、マイナンバーによる情報連携を使って医療保険情報を確認できる場合、保険証の写しなど一部の添付を省略できる。ただし、情報連携を使うかどうかや、何を省略できるかは自治体ごとの運用にも委ねられている。

福井県の案内は、窓口でマイナポータルの資格情報画面をスマートフォンに表示する方法を認めている。富山県も、受給者本人と支給認定基準世帯員全員のマイナンバーが提供済みであるなどの条件を満たせば、資格確認書類を省略できる案内を出している。画面提示、行政側の照会、印刷提出。たどり着きたい情報は近くても、受け取り方が違うわけだ。

このため、石川県議会での「国のルール」という答弁と、国や各県が公表する実際の手続きは、単純には重ならない。答弁だけから「国が全国一律で紙を義務づけた」と断定するのも、逆に「石川県だけが理由なく紙に固執している」と決めつけるのも早い。石川県が画面提示を認めない具体的な内部事情や、相談した家族にどの書類がなぜ必要だったかは、公開情報だけでは確定できないからだ。

ただ、患者側から見れば、県ごとの事情を解読すること自体が新たな負担になる。「紙を出してください」だけでなく、何の確認に必要で、画面提示や行政照会では代えられないのかを説明する責任は、手続きを設計する側にある。

PMHで全部つながるのか ​

国は、自治体の医療費助成情報を医療機関へつなぐPMHを進めている。厚生労働省の2025年10月時点の資料では、指定難病分野で31都道府県と266市区町村が参加予定とされ、2026年度中の全国規模での導入が目標に掲げられた。

PMHが広がれば、医療機関の窓口で受給者証を毎回見せる負担は減らしやすい。ただし、PMHの主な役割は交付済みの公費負担資格を医療機関などで確認しやすくすることだ。更新申請に必要な世帯情報を集め、所得を審査し、新しい認定を決める仕事まで自動的に消えるわけではない。

ここも、デジタル化を「カード1枚ですべて解決」とだけ説明すると見えにくくなる。病院、保険者、自治体の助成部門が別々に持つ情報を、必要な範囲でつなぎ、つながらない部分は分かるように案内する。派手ではありませんが、本当に必要なのはその配管工事です。

利用する人が確認したいこと ​

更新する人は、まず住んでいる自治体の最新案内を確認したい。マイナ保険証があっても、カードそのもの、マイナポータル画面、画面の印刷、資格情報のお知らせ、資格確認書のどれを受け付けるかは同じではない。世帯員の保険変更があった場合は、追加資料が必要になることもある。

そして行政側に問われるのは、紙かデジタルかという看板ではない。患者や家族が、体調や仕事の都合を抱えながら何度も窓口を往復せずに済むかだ。画面提示で足りるならそう案内する。行政照会で足りるなら提出を省く。紙が必要なら、理由と代替手段を申請前に明示する。その積み重ねが、制度を使えるものにする。

まとめ ​

マイナ保険証があっても難病助成の更新で紙を求められることがあるのは、カードが保険情報そのものではなく、医療機関のオンライン資格確認と自治体の助成審査も別の仕組みだからだ。さらに助成では、患者本人だけでなく、同じ医療保険に入る世帯員を確認して負担上限を決める必要がある。

一方、紙は全国一律で絶対に外せないわけでもない。国の情報連携、スマートフォンの画面提示、自治体側の照会をどう使うかで、運用は変えられる。鍵はもう利用者の手元にある。次に必要なのは、窓口側の鍵穴をそろえ、どこまでつながっているかを患者へきちんと伝えることだ。

Sources ​