日本トイザらスが民事再生手続開始を申し立てました。ところが店は当面、通常どおり営業します。しかも「ドン・キホーテ」などを展開するPPIHのグループ会社へ事業を譲る契約も結びました。こう聞くと、「倒産したのに開いているの?」「つまりドンキが会社ごと買ったの?」となりますよね。
いや、ここがミソなんですよ。今回動くのは、会社の株式ではなく販売事業です。店の看板、そこで働く人、客が持つポイント、会社が抱える約132億円の負債は、ひとまとめの段ボール箱ではありません。それぞれ違う条件で動きます。順番に箱を開けていきましょう。

「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、日本トイザらスとの事業譲渡契約を締結したと発表しました。日本トイザらスは、1日付で東京地方裁判所に民事再生手続き開始の申し立てを行っていて、PPIHが玩具や子ども用品などの販売事業を10月末に譲り受けることになります。統合後の玩具売上高は約1500億円と見込まれ、玩具のリアル店舗の市場ではトップクラスの規模になります。PPIH・森谷健史常務執行役員:(2社は)強みとする顧客層が大きく異なり、それぞれの強み…
今回の登場人物
- 日本トイザらス:民事再生手続開始を申し立て、事業を譲る側の会社です。「トイザらス」は法人名でも店名でもブランド名でもあるので、話がややこしくなりやすいんですね。
- PPIH:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの略です。ドン・キホーテやアピタなどを展開する企業グループの持株会社です。
- オペレーションシェアードサービス(OSS):PPIHの完全子会社です。今回、店舗とオンラインの玩具・子供用品販売事業を実際に譲り受ける予定の会社です。
- 民事再生:裁判所の監督下で、営業を続けながら債務と事業を整理し、再建を目指す手続きです。財産を金銭に換えて債権者へ配ることを基本とする破産とは、目的が違います。
- 事業譲渡:会社そのものではなく、営業に必要な資産や契約、人員などを選んで別会社へ移す方法です。会社の丸ごと引っ越しではなく、「持っていく物を一つずつ決める引っ越し」に近いでしょう。
何が起きたか
FNNプライムオンラインは2026年10月2日、日本トイザらスが10月1日に東京地方裁判所へ民事再生手続開始を申し立て、PPIHグループへの事業譲渡を進めると報じました。
PPIHの発表によると、同社とOSS、日本トイザらスは10月1日にスポンサー契約としての事業譲渡契約を結びました。譲渡の対象は、日本トイザらスが店舗とオンラインで営む玩具・子供用品などの販売事業です。実行日は10月30日の予定ですが、民事再生法に基づく裁判所の許可などが前提になります。
東京商工リサーチによれば、負債総額は債権者1,159人に対して132億2,600万円。2026年7月時点の店舗数は158店でした。日本トイザらスは移行手続きが終わるまで通常営業を続けるとしており、三菱UFJ銀行から事業継続に必要なDIPファイナンスも受けました。DIPファイナンスとは、再建手続き中の会社が営業を止めないための資金です。過去の借金を全部きれいに消す魔法の財布ではありません。
なお、ここで確認できるのは「申立て」までです。裁判所による「開始決定」は次の段階なので、同じ言葉のようには扱えません。法律の話は、似た名前の札が多いんですよ。札を勝手に裏返すと、急に別のゲームになります。
ここが本題
今回の中心問いはこうです。民事再生を申し立てた会社から事業を譲り受けるとき、「会社」「店舗運営」「ブランド」「負債」はどう切り分けられるのでしょうか。
ニュースでは「PPIHがトイザらスを買う」と短く言いたくなります。でも、その一文だけでは、会社の株式を取得するのか、事業を取得するのかが抜け落ちます。今回は後者です。日本トイザらスという法人の持ち主を替えるのではなく、販売事業をOSSへ移す計画なんです。
いや、この違いは細かい言葉遊びじゃないんです。約132億円の負債を誰が負うのか、全店舗が残るのか、雇用契約が移るのか、ポイントが使えるのか。全部ここから分かれていきます。
会社と事業は別の箱
まず「会社」は、契約を結び、資産と負債を持つ法律上の主体です。日本トイザらスはこの会社の名前であり、約132億円の負債も原則としてこの箱に入っています。
一方の「事業」は、商品を仕入れ、店やオンラインで売る仕組みのまとまりです。店舗の設備や在庫だけではありません。賃貸借、仕入れ、雇用、システム、会員制度、ブランドを使う権利など、たくさんの部品が組み合わさって初めて店が動きます。おもちゃ売り場は棚だけでは営業できません。棚が「今日から私がレジもやります」と言い出したら、それはそれで見てみたいけれど、現実はそうはいかないんです。
株式を買って会社を子会社にする取引なら、会社という箱はそのままで、箱の持ち主が変わります。会社が結んだ契約や負債も、基本的にはその会社に残ります。ところが事業譲渡では、別会社へ移す資産や契約などを選びます。だから旧会社の負債が、販売事業と一緒に自動でOSSへ丸ごと移るわけではありません。
もちろん、契約で特定の債務を引き受ける場合や、法律上の例外はあり得ます。ただ、今回どの債務を承継するのか、その完全な一覧は公表されていません。「店が続く」から「借金も全部PPIH側が払う」まで一気に飛ぶのは禁物です。橋がないところを勢いで渡ると、だいたい川に落ちます。
契約した、でも移ってはいない
さて、次に分けたいのが、「契約した」と「実際に移った」です。
事業譲渡契約は10月1日に締結されました。けれど、実行予定日は10月30日で、裁判所の許可などが条件になっています。だから現時点の正確な言い方は、「OSSが事業を譲り受ける予定」であって、「PPIHが取得を完了した」ではありません。
ちょっと待って、話はそこからです。売り手と買い手が合意しても、店、人、契約が10月1日の午前0時に一斉に新会社へワープしたわけではありません。譲渡日まで営業をつなぎ、その間に必要な承諾や手続きをそろえます。
同じように、「全店舗や全従業員の承継を目指す」という方針と、「全店舗・全従業員の承継が確定した」という事実も別です。PPIHは可能な限り全従業員の承継を目指し、全店舗の承継について各賃貸人に協力を依頼する予定だと説明しています。目指していること自体は大切です。ただし、目標の旗を立てたことと、全員がゴールしたことは同じではありません。
引き継ぎは一括ではない
店舗
店を続けるには、売り場の設備だけでなく、その場所を使う契約が要ります。賃貸店舗なら、賃貸借契約を移すことなどについて家主の協力が必要になります。PPIHが全店舗の承継に向けて賃貸人へ協力を依頼するとしているのは、このためです。
したがって、7月時点の158店という数字は、譲渡後も残る店舗数の確定値ではありません。現時点で言えるのは、移行手続きが終わるまでは通常営業を続ける方針だということまでです。
雇用
事業譲渡では、雇用契約もベルトコンベヤーに載せて自動で運べるわけではありません。厚生労働省の指針は、労働契約の承継について、労働者本人の真意による承諾を得るよう求めています。
PPIH側は可能な限り全従業員を引き継ぐ方針を示しています。ただ、個々の従業員の承諾や条件の確認があるため、「全員の雇用が維持される」とはまだ断定できません。ここは働く人の生活に直結します。景気のいい言い切りで先回りしてはいけないところです。
ポイントとギフトカード
利用者に一番近いのがここでしょう。日本トイザらスの案内では、ポイントやギフトカードは譲渡までは引き続き利用でき、譲渡後も使えるよう調整しています。ただし、調整中は確定済みという意味ではありません。
ポイントは返金の対象ではありません。ギフトカードについて、譲渡後の利用や代替手段を希望せず返金を求める場合は、旧会社である日本トイザらスの民事再生手続きで債権届出が必要になります。再生債権とは、民事再生手続きの中で支払いを求める権利です。返済額と時期は現時点で未定で、レジへ持っていけば、その場で必ず全額が現金になるという話ではありません。利用継続と返金では道が分かれるので、会社の最新案内を確認したいところです。
ブランドと負債
「トイザらス」の看板が続けば、客から見える店はよく似ているかもしれません。しかし、ブランドを使う権利の細かな契約は公表されていません。看板が同じことと、運営法人や負債の持ち主が同じことは別です。
ここまでを一言で言うなら、事業譲渡は「店を動かす仕組みを救い出す計画」であって、「旧会社の過去を丸ごと新会社へ移す計画」ではありません。会社、営業、看板、借金。似た顔で並んでいますが、名札は四枚あります。ここを一枚に重ねると、話がこんがらがるんですよ。
それで何が変わるのか
利用者は、目の前の店が開いているかだけでなく、譲渡後のポイントやギフトカードの案内を見る必要があります。従業員にとっては、事業が続く方針と、自分の雇用契約が新会社へ移ることは別です。家主には店舗契約の承継があり、取引先や債権者には旧会社への債権をどう扱うかという問題があります。
つまり、同じニュースでも立場ごとに確認する札が違うんです。客は会員制度、従業員は雇用契約、家主は賃貸借、債権者は再生手続き。全員で同じ巨大な「買収しました」スタンプを押して終わり、ではありません。
次に見るべきなのは、裁判所の判断、10月30日に予定される譲渡の実行、実際に承継される店舗と従業員、ポイントなどの最終的な扱いです。加えて、譲渡対価、承継する債務、再生計画、債権者への弁済率はまだ明らかになっていません。ニュースの続きは、この空欄が埋まるたびに更新されます。
まとめ
民事再生は、破産と同じく経営危機の中で使われる法的手続きですが、直ちに会社を清算して全店を閉めるという意味ではありません。営業を続けながら、事業譲渡などで再建を目指すことができます。
今回の日本トイザらスは、会社の株式ではなく販売事業をOSSへ譲る契約を結びました。だから、店舗運営や雇用、ブランドは条件を満たした範囲で移る一方、旧会社の約132億円の負債が自動で丸ごと移るわけではありません。そして契約は締結済みでも、譲渡はまだ実行前です。
看板が残るかだけでなく、その裏で誰が契約を持ち、誰が負債を負うのか。そこまで分けて読めれば、「倒産したのに店が開いている」という一見ふしぎな話も、ずいぶんすっきり見えてくる。