HDDを買おうとして検索すると、「壊れやすいのはどれ?」という表が出てくる。しかも対象は35万台超の大所帯。ここまで集めたなら、もうメーカーの順位表が完成したように見えますよね。
いや、ここがミソなんですよ。Backblazeの統計はとても貴重だが、測ったのは同社のデータセンターで動く特定の型番、特定の年齢、特定の使われ方だ。そこから家庭用HDDのメーカー順位や「今が買い時」まで一気に走ると、数字より先に結論がゴールしてしまう。

クラウドストレージサービスやデータバックアップサービスで大量のハードディスクドライブ(HDD)を運用するBackblazeは、自社データセンター内で運用するストレージデバイスの故障率をメーカーやモデルごとに公開しています。2026年第2四半期の統計データが2026年9月29日に公開されました。
今回の登場人物
- Backblaze:米国のクラウドストレージ企業。自社データセンターで使うドライブの稼働記録を集め、2013年からデータセットと分析を公開している。
- HDD:ハードディスクドライブ。磁気ディスクを回してデータを記録する装置で、メーカー名が同じでも容量、世代、型番で中身は違う。
- AFR:Annualized Failure Rate、つまり年率換算した故障率。四半期に起きた故障を、その期間の稼働日数を使って1年相当へ換算する。
- drive day:1台が1日動くと「1 drive day」。100台が10日動けば1,000 drive daysだ。途中で台数が増減する現場を、最終日の台数だけで数えないための物差しである。
- S.M.A.R.T.:HDD自身が記録する稼働時間、温度、エラーなどの状態情報。Backblazeは稼働中の各ドライブについて、毎日スナップショットを取っている。
何が起きたか
GIGAZINEは9月30日、Backblazeが公表した2026年第2四半期、4月1日から6月30日までのHDD故障統計を紹介した。
四半期表の分析対象は35万4,415台。合計3,155万3,350 drive daysの稼働中に、1,498件の故障が記録された。AFRは1.73%である。ここで「35万台の1.73%、つまり約6,100台が壊れたのか」と掛け算したくなるが、ちょっと待って。実際の故障は1,498件だ。1.73%は3カ月の単純な割合ではなく、1年分へ換算した率なのである。
生涯集計の表は、対象35万3,041台、累計5億5,814万8,607 drive days、故障2万1,609件で、AFRは1.41%だった。この「生涯」も、1台が生涯で壊れる確率という意味ではない。各型番について集まった全期間のdrive daysと故障数から出した年率だ。「生涯」という名前はずいぶん堂々としているが、意味まで大きくしないようにしたい。
AFRは「1,498÷35万4,415」ではない
Backblazeの計算式は、こうだ。
AFR=故障数÷(drive days÷365)×100
今回なら、1,498÷(31,553,350÷365)×100で、およそ1.73%になる。分母に四半期末の台数ではなくdrive daysを置くのは、期間中に新しいHDDが加わったり、故障や入れ替えで外れたりするからだ。
町の銭湯で「閉店時に靴箱へ何足あったか」だけ見ても、1日に何人来たかは分からないでしょう。昼に来て帰った人もいる。drive daysは、その出入りを毎日数える方法だ。地味ですが、こういう地味な係が統計を支えている。
ただし、AFRは予言ではない。2026年第2四半期に観測したペースを年率へそろえた指標であり、「この型番を今日1台買えば、今後1年で必ずこの確率で壊れる」という保証書ではない。比較しやすい同じ目盛りに直したのであって、未来を予約したわけではないのだ。
大きな母数にも、入口の条件がある
35万台という規模は強い。とはいえ、ここで「人数が多いから全部同じ条件」とはいかない。表には、全ドライブが同じ条件で並ぶわけではないのだ。
四半期表に載る型番は、期間末時点で100台超、かつ1万drive days超が条件だ。生涯表はさらに厳しく、500台超、かつ10万drive days超。この条件を設けると、少数の故障だけで率が大きく振れる型番が表へ入りにくくなる。
それでも、型番ごとの母数はそろわない。四半期表では171台の型番もあれば、4万5,665台の型番もある。故障ゼロの型番も三つあったが、観測期間中にゼロだったことと、将来も壊れないことは別だ。サイコロを数回振って6が出なかったからといって、6の面を削ってよいわけではない。
反対に、高いAFRにも背景がある。Q2で7.63%だった12TBのHGST製型番は平均年齢が83.8カ月、9.33%だった10TBのSeagate製型番は101.7カ月だった。およそ7年と8年半である。さらに後者は965台、故障22件だった。率だけをメーカーの性格へ変換すると、年齢と母数が玄関に置き去りになる。
メーカー名より型番、型番より比べる条件
表にはHGST、Seagate、東芝、WDCの名前が並ぶ。つい「どこが一番?」と聞きたくなるが、今回の表が直接比べている単位は主に型番だ。同じメーカーでも、容量、設計世代、平均年齢、導入台数は違う。
しかもBackblazeの保有構成は、無作為に各社製品を同じ台数ずつ買った比較実験ではない。必要な容量、調達できる数、価格、導入時期など、事業上の判断を重ねた結果である。古い型番と新しい型番、8TBと26TBが同じ表にいる。運動会なら、年齢も競技も違う選手をまとめて「会社別の足の速さ」にしているようなものだ。表が悪いのではない。会社別ランキングに作り替えるこちらの手つきが少々あわてている。
比較するなら、少なくとも型番、平均年齢、台数、drive days、故障数を一緒に見る。四半期AFRと生涯AFRも分ける。四半期は最近の変化に気づきやすいが、短期の振れを受けやすい。生涯値は長い記録を使える一方、古い時期と現在の運用を混ぜる。この二つは、速報と卒業アルバムくらい役目が違う。
データセンターと家庭は、同じHDDでも暮らしが違う
もう一つ大事なのが環境だ。BackblazeのHDDはデータセンターで大量に動き、毎日の状態が記録され、異常時には運用チームが対応する。家庭では、週末だけ電源を入れる外付けHDDもあれば、録画機や家庭用サーバーで連続稼働するものもある。温度、振動、通電時間、読み書きの量、ケースの冷却、電源、監視の有無が違う。
Backblaze自身も、データセンターと消費者用途ではHDDの経済条件や保守の仕方が根本的に違うと説明している。だから同社の統計は家庭に無関係なのではない。型番ごとの大量の実運用記録として、有力な材料の一つになる。ただし、レストランの厨房で壊れにくかった冷蔵庫を、ワンルームにもそのまま最適と言い切れないのと同じだ。置き場と働き方を戻して考える必要がある。
そして、このデータだけでは「買い時」も決められない。価格、保証、必要容量、接続方式、在庫、自分の用途は集計項目ではないからだ。ましてSSDの信頼性へ話を移すこともできない。今回はHDDの表である。隣の教室の成績まで勝手につけてはいけません。
この統計をどう読めば役に立つのか
では、35万台のデータを眺めて「へえ」で終わりかというと、そんなもったいない話ではない。見る順番を変えれば、ちゃんと買い物の材料になる。
まずメーカー名ではなく、検討している型番が表にあるかを見る。次に、台数とdrive daysが十分か、平均年齢が自分の想定と近いかを確認する。故障数がゼロや一桁なら、率の小ささだけでなく観測量も見る。そして四半期と生涯で傾向が大きく違えば、年齢構成や最近の変化を疑う。
最後に、この統計はバックアップの代わりにならない。低いAFRの型番を選んでも、手元の1台が壊れない保証はない。逆に高い値を見つけても、メーカーの全製品が同じように壊れるとは言えない。統計は「絶対に壊れない1台」を探す水晶玉ではなく、条件をそろえてリスクを比べる地図なのだ。
まとめ
Backblazeの2026年第2四半期統計は、35万4,415台、3,155万3,350 drive days、故障1,498件からAFR1.73%を算出した。大規模で、公開データもあり、HDDの実運用を知るうえで非常に価値が高い。
それでも家庭用HDDのメーカー順位は決められない。表は型番別で、年齢、容量、台数、導入事情がそろっておらず、使われる環境も家庭とは違うからだ。AFRは観測期間の故障ペースを年率へ換算した指標で、1台の未来を言い当てる札でもない。
大きな数字を見たら、まず「何を、どこで、何日、何台測ったの?」と聞く。いや、疑い深いのではありません。そこまで読めて初めて、35万台という大きさが本当に味方になるんです。