大阪府寝屋川市で、賃貸や売却に動いていない空き家へ独自の税をかける条例案が可決された。免除や減免はあるが、「空き家から税金を集める話」と聞こえる。そこだけ見ると本題を半分落としてしまう。
この税の主役は税収ではない。何年も止まっている家の持ち主に、売る、貸す、使う、という判断を少し早くしてもらうことだ。税金を家の目覚まし時計にする。負担額は家屋と土地に関する固定資産税額を土台に計算され、物件ごとに変わる。

9日、大阪府の寝屋川市議会は「空き家税」の導入に向けた条例案を可決しました。 活用されていない空き家の流通を促し、新たな住人を呼び込むことが狙いです。 課税対象は、寝屋川市内にある賃貸や売却の予定が
今回の登場人物
- 寝屋川市:大阪市の北東にある住宅都市。市域が約24.7平方キロメートルとコンパクトで、新しい住宅地を大きく増やしにくい。そこで、市場に出ていない空き家を次の住み手へ回そうとしている。
- 空き家流通促進税:今回可決された新税の正式名称。国の法律に最初から並んでいる税ではなく、市が条例で新設する「法定外普通税」だ。
- 総務大臣:市が法定外普通税を新設するときの協議相手。市議会で条例案が可決されても、協議と同意を終えるまでは課税を始められない。
- 京都市の非居住住宅利活用促進税:よく似た先行例。ただし、対象区域、税額の計算、開始予定が寝屋川市とは違う。名前が似ていても双子ではなく、いとこくらいだ。
何が起きたか
テレ朝NEWSは2026年7月10日、寝屋川市議会が前日の9日に「空き家流通促進税」の条例案を可決したと報じた。市は総務大臣の同意などを得たうえで、2029年度にも課税を始めたい考えだ。
対象になる可能性があるのは、市内にある約6400戸の空き家だと報じられている。寝屋川市の市政運営方針では、2023年の住宅・土地統計調査をもとに、市内の空き家は1万5450戸、このうち賃貸用が8120戸、売却用が920戸、どちらでもない住宅が6410戸と整理している。
ただし、6410戸すべてにいきなり納付書が飛んでくるわけではない。実際の課税対象は、毎年1月1日の利用状況や、条例が定める課税免除・減免に当てはまるかを確認して決まる。「約6400戸」は制度の射程を示す数字で、確定済みの納税者名簿ではない。ここ、税の話ではかなり大事です。
ここが本題
寝屋川市がやろうとしているのは、空き家を持つこと自体を悪事にすることではない。家を市場の外で止めたままにするコストを上げ、所有者の判断を促すことだ。
市の空き家流通促進審議会は、この税を「政策課税」「誘因課税」と位置付けた。難しい言葉だが、意味はわりと素直だ。お金を集めるだけでなく、税によって行動を変えてもらう。レジ袋を有料にしてマイバッグを促すのと発想は近い。ただし、今回は家なので、レジ袋より桁も悩みもかなり大きい。
35%はどうかかるのか
報道では「家屋と土地に課している固定資産税の35%」と短く説明されている。条例案の設計をもう少し正確に見ると、新税は二つの部分を合算する。
一つ目は「家屋割」。空き家の家屋にかかる固定資産税額を基準に、その35%を計算する。
二つ目は「家屋立地割」。敷地の土地にかかる固定資産税額を1平方メートル当たりに直し、住宅の延べ床面積を掛け、さらに35%を掛ける。土地の広さそのものではなく、土地の税額と家の床面積を組み合わせるわけだ。
つまり、全員一律で年何万円という制度ではない。家屋と立地の条件で負担は変わる。そして固定資産税が新税に置き換わるのでもない。これまでの固定資産税とは別に、空き家流通促進税が加わる。
ここで効いてくるのが「持ち続ける費用」だ。空き家は使わなくても、固定資産税、草木の手入れ、修繕、火災保険などの費用がかかる。そこへ新税が加われば、「いつか考えよう」を毎年更新するより、売却や賃貸の相談を始めた方がよい、と判断する所有者が出てくる可能性がある。税が狙うのは、まさにこの計算の変化だ。
空き家なら全部課税ではない
条例案は、住宅のうち「現に人が居住していない状態」と認められるものを空き家とする。一方で、空室が出ただけの賃貸住宅や、売り出したばかりの家まで同じ扱いにすると、むしろ流通を邪魔してしまう。そこで免除の線が引かれている。
事業に使っている住宅や、1年以内に事業利用する具体的な予定がある住宅は課税しない。賃借人の募集や販売を始めてから1年を経過していない住宅も免除対象だ。固定資産税が非課税となる住宅も外れる。
所有者が亡くなった場合や、居住者の死亡によって空き家になった場合には、3年度分を課税しない仕組みも置かれている。相続直後に処分を迫るのは現実的ではないため、遺族が財産や権利関係を整理するための猶予が設けられている。
さらに、災害や盗難で損失を受けた人、生活保護を受けている人、一時的な事情で住んでいない住宅の所有者などには減免規定がある。個々の免除や減免には申告や証明書類が必要になる場合があり、細かな運用は施行規則で決まる。
だから、「実家が空いた瞬間に35%増税」「住民票がなければ即アウト」と決めつけるのは早い。課税時点の利用実態、売却・賃貸の動き、相続からの期間、減免理由を順番に確認する制度だ。
なぜ寝屋川市は市場を動かしたいのか
寝屋川市の悩みは、単に古い家が目障りだからではない。新しい住宅地を広げる余地が限られる一方、住みたい人の受け皿になりうる家が市場の外で眠っていることだ。
市の整理では、賃貸用・売却用ではない6410戸のうち、特定空家などが1300戸。残る5110戸は管理されていても市場に流通していないとされる。ここに買い手や借り手が住める家が含まれているなら、新しい山を削って住宅地を造らなくても、既存の街の中で住まいを受け渡せる。
空き家が売りに出れば、必ず子育て世帯が買うわけではない。修繕費が高い家も、権利関係が複雑な家も、立地が需要に合わない家もある。それでも、情報すら市場に出ていない状態では、買うか直すかの検討も始まらない。まずベンチから選手を出してください、というのが新税の役割なんです。
税だけでは家は動かない
ここは期待を盛りすぎない方がいい。空き家が止まる理由は、所有者の怠慢だけではない。
親の荷物を片付けられない。相続人が複数いて話がまとまらない。修繕しても売れるか分からない。解体費を出せない。そもそも遠方に住み、どこへ相談すればよいか分からない。税の納付書は、こうした問題を魔法のように片付けてはくれない。納付書に相続人会議をまとめる機能は、まだ搭載されていません。
だから市は、不動産、建築、法律、金融の専門家団体でつくる「空き家流通推進プラットフォーム」も運営している。税で判断を促し、相談窓口で売却、賃貸、改修、解体などの出口につなぐ。この二つが組み合わさって初めて、「圧力」が「流通」に変わる。
制度の成果を見るときも、税収額だけを見てはいけない。売却・賃貸の相談が何件増えたか。市場に出た住宅が何戸あったか。空き家の期間が短くなったか。危険な状態になる前に管理や処分へ進めたか。税収が伸び続けるより、対象となる空き家が減る方が、政策としては成功に近い。
京都市とは何が違うのか
京都市も「非居住住宅利活用促進税」を導入し、2030年度からの課税開始を予定している。ただし、京都市は市街化区域内の非居住住宅を対象とし、空き家だけでなく別荘やセカンドハウスも制度の説明に含める。税率も家屋の固定資産評価額や立地に応じた計算だ。
寝屋川市は、市内全域の市場に流通していない空き家に働きかける設計で、固定資産税額を土台に35%を掛ける。似ているのは「住まいを止めずに使ってもらう」という目的。違うのは、その街が抱える住宅事情に合わせた対象と計算方法だ。
どちらか一つが全国共通の完成形という話ではない。自治体ごとの住宅事情に、税という工具をどう合わせるかを試している段階だ。工具箱からレンチを出したからといって、全国のネジが同じ大きさとは限らない。
まだスタートではない
条例案の可決は大きな節目だが、2029年度の課税開始が確定したわけではない。
地方税法669条は、市町村が法定外普通税を新設するとき、あらかじめ総務大臣と協議し、同意を得るよう定めている。寝屋川市の条例も、実際の施行日は規則で定める形だ。総務大臣の同意、課税情報を扱うシステム、所有者への周知、申告や減免の運用準備がそろって、ようやく納付書の出番になる。
今の時点で確実に言えるのは、市議会が制度の枠組みを認め、市が2029年度の開始を目指していることまでだ。「寝屋川市で空き家税がもう始まった」と言うと、ニュースの時計を3年ほど早送りしてしまう。
それで何が変わるのか
この制度が投げかける問いは、空き家を持つ人だけのものではない。
日本では、住宅が足りない場所と、家が余っている場所が同時に存在する。しかも、空いている家が売りにも貸しにも出なければ、統計上は住宅があっても、住みたい人には「ない」のと同じだ。寝屋川市は、その見えない在庫へ保有コストを加え、市場の棚に戻そうとしている。
うまく働けば、所有者は早めに相談し、住宅は荒れる前に次の使い手へ渡る。市は危険な空き家への将来の対応費を抑えられるかもしれない。住み手には選択肢が増える可能性がある。
反対に、相談や改修支援が弱ければ、売れない家の所有者に負担だけが残る。だから今後の見どころは、税率の派手さより、免除・減免を公平に運用できるか、そして「動かしたいが動かせない人」に出口を用意できるかだ。
まとめ
寝屋川市の空き家流通促進税は、空き家から税収を稼ぐことだけが目的ではない。持ち続ける費用を上げ、売却、賃貸、活用の判断を早めてもらうための政策課税だ。
ただし、空き家なら無条件で課税されるわけではなく、売却・賃貸を始めた住宅、事業利用、相続直後、一時的な不在などへの免除・減免がある。2029年度の開始も目標であり、総務大臣の同意などが必要になる。
税は家を歩かせる足ではない。でも、止まったままの家の背中を押す手にはなれる。その手の先に、相談、改修、売買の道をつなげられるか。寝屋川市の本当の勝負は、納付書を出してからだ。