タクシーの予約、薬の仕分け、めくれたカーペットの補修。どれも暮らしには必要ですが、本来、ケアマネジャーが何でも無償で引き受ける仕事ではありません。では「業務外です」と断れば解決するか。いや、話はそこからです。頼める家族も業者もいなければ、困りごとは利用者の家にそのまま残ります。
ケアマネジャーは、介護サービスの計画を作り、人とサービスをつなぐ専門職です。ところが、最初に困りごとを見つける人でもあるため、渡す先がなければ、自分で動く人になってしまう。これが無償の「シャドーワーク」を生む仕組みです。善意を禁止するだけでも、善意に頼り続けるだけでも解けません。地域に、仕事をきちんと受け取る次の手が必要なんです。

『介護の司令塔』とされるケアマネジャーの担い手不足が深刻です。その背景の一つに、本来の業務とは別に強いられる “シャドーワーク” があるとされています。【電話での通話】「もしもし、ケアプラン柚のケアマ…
今回の登場人物
- ケアマネジャー: 正式には介護支援専門員。本人や家族の希望を聞き、必要な介護サービスを組み合わせ、事業者などと調整する専門職です。
- ケアプラン: どんな生活を目指し、どの介護サービスを、どれくらい使うかをまとめた計画です。作って終わりではなく、利用後の確認と見直しもします。
- シャドーワーク: ここでは、ケアマネジャーが本来の業務範囲ではないと考える仕事を、報酬のないまま担うことを指します。法律で一つに定められた言葉ではありません。
- 地域包括支援センター: 高齢者の暮らしや介護、権利を守るための相談を受け、地域の支援機関をつなぐ市町村の拠点です。
- 社会福祉協議会: 地域福祉を進める民間組織です。市区町村などの単位で、相談、見守り、住民活動の支援などを行います。
- 保険外サービス: 介護保険の給付対象ではない生活支援を、本人の自己負担などで提供するサービスです。料金や内容は事業者によって異なります。
何が起きたか
BSN新潟放送は、新潟県内で働くケアマネジャーが2020年の3424人から2024年には3110人へ、4年間で314人減ったと報じました。同じ記事では、県内の要支援・要介護認定者は13万8166人と紹介されています。
ただし、この二つの数字だけで「シャドーワークのせいで314人が辞めた」とは言えません。ケアマネの人数が減る理由には、年齢、賃金、業務量、資格更新、職場環境など複数の要因があります。認定者数も、1人のケアマネが何人を担当したかを直接示す数字ではありません。確認できるのは、人材が減っている現場で、本来業務の外側にある支援まで負担になっている、という重なりです。
記事が紹介した上越市のケアマネのもとには、タクシーの予約や薬の仕分け、カーペットの補修といった相談が届きます。どれも、暮らしを続けるうえでは小さくありません。でも、ケアプランを作り、介護サービスを調整する仕事とは別です。ケアマネは暮らしの何でも屋ではない。とはいえ、目の前でつまずきそうなカーペットを見て「担当外です」と背を向けるのも難しい。そこなんです。この板挟みから、影の仕事が生まれます。
発見した人が、そのまま実働者になる
なぜケアマネに制度外の依頼が集まるのでしょう。本人の暮らしを定期的に見て、家族、病院、介護事業者、行政と連絡を取るからです。つまり、困りごとを早く発見できる位置にいます。
本来なら、発見したあとに適切な支援先へつなげればよい。ところが、近くに引き受ける人がいない、どこへ相談すべきか分からない、有料サービスは費用が合わない、緊急で待てない。そうなると「見つけた人」が「手を動かす人」へ変わります。窓口を見つけたら、そこが作業場にもなってしまうわけです。
案内所に「荷物は運びません」と貼れば、役割は明確になります。でも床に残った荷物は消えませんよね。役割の線引きは必要です。ただし、線の向こう側に受け取り手を用意しなければ、利用者が困るか、ケアマネがやむを得ず引き受け続けるかの二択になってしまいます。
641人の調査が映した「影」
労働組合のUAゼンセン日本介護クラフトユニオンは2024年、組合員が働く事業所に調査を依頼し、ケアマネジャー641人から回答を得ました。そのうち97.3%が、自分では本来の業務範囲ではないと思うことに対応した経験があると答えました。
項目別では、高頻度・長時間の電話対応が77.8%、介護保険で対応できなかったときの通院介助が70.7%、買い物や銀行手続き、粗大ごみ対応など制度外の生活支援が63.8%でした。数字を見ると、特別な一件というより、いくつもの「少しだけ」が日常へ入り込んでいる様子が分かります。「少しだけ」が毎週来ると、もう「少し」ではありません。小さな付箋も机いっぱいに貼れば、肝心の机が見えなくなります。
もっとも、この調査は全国から無作為に抽出した全ケアマネの代表調査ではありません。組合員が働く事業所へ依頼し、回答した641人の結果です。したがって「全国のケアマネの97.3%」と一般化するのは行き過ぎです。それでも、現場でどんな仕事が境界を越え、なぜ負担になるのかを具体的に示す材料にはなります。
「線を引く」だけでは足りない
厚生労働省の検討でも、ケアマネジャーが担うべき業務の範囲を整理し、他の機関や職種との役割分担を分かりやすくする必要性が議論されてきました。相談、ケアプラン作成、サービス調整、利用状況の確認という専門業務に集中できるようにする。方向としては大切です。
ただ、現場で必要なのは役割表だけではありません。きれいな表を作っても、困りごとは表のマス目へ歩いていってくれませんからね。困りごとを見つけたら、地域包括支援センター、社会福祉協議会、行政の相談窓口、介護事業者、民間サービス、地域の助け合いへ、迷わず渡せる道が要ります。誰が受けるか、費用は誰が負担するか、緊急時はどうするかまで決めて、初めて線引きが機能します。
しかも、ケアマネが毎回ゼロから電話帳をめくる仕組みでは続きません。市町村が中心になって支援先の一覧と条件を更新し、相談を振り分け、受け手が足りない分野を把握する必要があります。これは個人の段取り力ではなく、地域のインフラの仕事です。
有料サービスだけでは埋まらない
BSNの報道は、上越市で民間の生活サポート「ten」が始めた有償支援を紹介しています。利用者は約60人で、料金は1時間3300円。通院の付き添い、日用品の買い物、家の中の小さな困りごとなど、介護保険では埋めにくい部分を引き受けます。
この仕組みの良いところは、これまでケアマネの善意に隠れていた仕事へ、担当者と価格を付けることです。見えなかった仕事に、きちんと名札と値札を付けるわけです。依頼する側も提供する側も、どこまで頼めるかが見えやすくなります。ただし、これは上越市が一律に提供する公的制度ではなく、民間の保険外サービスです。地域によって同じ受け皿があるとは限りません。
そして1時間3300円を無理なく払える人ばかりでもありません。先ほどの641人調査では、制度外だと思う支援を実際に行った理由として「自費サービスを利用する金銭的な余裕がないため」を選んだ割合が、支援項目によっておおむね37%前後に達するものがありました。
ここも分母に注意です。全利用者の37%でも、回答者641人全員の37%でもありません。たとえば制度外の生活支援など、その項目へ対応したと答えた人の中で、金銭的余裕のなさを理由に選んだ割合です。調査票は複数回答なので、一つの理由だけで動いたとも限りません。
払えない人を、善意の裏側へ戻さない
有料サービスを増やしても、費用を払えない人を置き去りにすれば、その依頼はまたケアマネの机へ戻ります。だから民間サービス一本にせず、いくつもの受け皿を重ねる必要があります。
本人が負担できる場合は保険外サービスを使う。軽い支援なら地域の助け合いや社会福祉協議会の仕組みにつなぐ。生活の安全や権利に関わる問題なら行政や専門機関へ渡す。低所得などで自費利用が難しい人には、無料または低額の支援枠を設ける。どの組み合わせがよいかは地域の人材や交通事情で変わりますが、「払えないのでケアマネがただ働き」は制度とは呼べません。
もちろん、家族や近所の人へ一律に押し戻すのも違います。家族が遠方にいる、関係が難しい、本人が頼りたくないなど、事情はそれぞれです。支援を必要とすることを責めるのではなく、必要な仕事として見える場所へ出し、担い手と費用を相談する。その順番が大事です。
司令塔を司令塔へ戻す
ケアマネジャーは「介護の司令塔」と呼ばれます。司令塔が自らタクシーを予約し、薬を仕分け、家の補修まで走り回れば、肝心の計画づくりや状態変化の確認に使う時間が減ります。司令塔にボール拾いも会場設営も任せていたら、作戦を見る人がいなくなる。人が足りないから一人に集める、では、その一人がもっと足りなくなります。
必要なのは、ケアマネが相談を受けない仕組みではありません。相談を受けたあと、ふさわしい担い手へ確実に渡せる仕組みです。ケアマネの「気づく力」は残し、何でも自分でやる状態を終わらせる。ここを取り違えると、業務効率化のつもりが、困っている人を相談窓口から遠ざけてしまいます。
まとめ
ケアマネのシャドーワークが増えるのは、本人が親切すぎるからだけではありません。暮らしの困りごとを最初に発見する位置にいるのに、渡す先が見つからず、必要な仕事がその場に残るからです。
役割を明確にすることは第一歩です。しかし、線を引いただけでは支援は生まれません。市町村が中心となり、地域包括支援センター、社会福祉協議会、民間事業者などへの道筋を整え、自費で払えない人には無料・低額の選択肢も用意する必要があります。
善意はありがたい。でも、ありがたいものをインフラ代わりにしてはいけません。ケアマネを司令塔へ戻すには、影で行われてきた仕事を表へ出し、地域全体で「誰が、いくらで、どう担うか」を決めることです。