「ホームゲームをやります。会場はホームタウンから約600km先です」。文字だけ見ると、ホームという言葉がちょっと迷子になっている。2026年8月22日、東大阪市をホームタウンとするFC大阪は、FC琉球とのJ3公式戦を北九州市のミクニワールドスタジアム北九州で開いた。
クラブは関西から応援へ行く人に、中学生以上1万5,000円、小学生7,500円の遠征支援まで用意した。ええ、ありがたい。でも、ここで一度立ち止まりたい。そこまでして観客を運ぶなら、なぜ試合の方を近くへ持ってこられなかったのか。
答えは、ラグビーの日程だけではない。一つの公共施設を複数競技で使う難しさと、地元の代替会場になるはずの第2グラウンドがまだ完成していない事情が、同じ日に重なった。旅費を埋めても残る「会場の穴」を見ていこう。

サッカー・Jリーグで、「ホームゲームに来場すれば、交通費1.5万円支給」という太っ腹なキャンペーンが決行された。なぜ、ここまで高額な“アシ代”支給が行なわれたのか? それは、「ホームタウンから600kmも離れている地元スタジアムに、ファン(サポーター)を来場させるため」だ。
今回の登場人物
- FC大阪:東大阪市をホームタウンとするJリーグクラブ。試合会場を確保する側であり、第2グラウンドを整備して市へ寄付する協定の当事者でもある。
- 東大阪市:花園ラグビー場の持ち主。2015年に近畿日本鉄道から土地と施設を取得した。
- 東大阪花園活性化マネジメント共同体:花園中央公園とラグビー場を管理する指定管理者。指定管理者とは、市の施設の日常運営を任された団体のことだ。共同体にはFC大阪、HOS、天正が参加している。
- 花園第1グラウンド:FC大阪が通常ホーム戦に使う、収容人数2万6,443人の競技場。大きなラグビー大会にも使われる。
- 花園第2グラウンド:地元での代替開催先になり得る施設。5,000席などを整備する計画があるが、記事公開時点では工事が完了していない。
- Jリーグ:リーグ戦の枠組みを決める組織。ホームスタジアムが使えないときの代替会場確保は、原則としてクラブの責任だと説明している。
何が起きたか
Impress Watchが報じた8月22日のFC大阪対FC琉球は、2対2の引き分けだった。入場者数は894人。1週間前の8月16日に花園で行われたFC大阪のホーム戦には4,229人が入っている。
ただし、この二つは相手も日時も会場も違う。「600km離れたから3,335人減った」と引き算するのは乱暴だ。算数は合っても、因果関係が欠席している。ただ、普段の開催地から離れたことで、多くの観客にとって参加のハードルが上がったとは考えられる。
では、なぜ北九州だったのか。記事によると、花園第1グラウンドは9月12日のラグビー・パシフィックネーションズカップに向け、芝を休ませ、競技場内の広告を切り替える期間に入っていた。京都、奈良、和歌山など近隣の候補にも、陸上大会や別のJリーグ試合などの先約があったという。そこで、ギラヴァンツ北九州のホーム戦が入っていなかったミクニワールドスタジアム北九州を借りた。
この予約状況や芝管理の日数は、公開された全施設の台帳で照合できるわけではない。そこは記事の取材内容として扱う。ただし、9月12日に花園でラグビー日本代表対米国代表戦が行われたこと、市の運用方針が主要なラグビー大会の前に芝の養生期間を求めていることは、それぞれ公式資料で確認できる。
ここが本題
「ラグビーがあるから使えなかった」。まあ、これだけなら、たまたま日程が悪かった話に見える。でも、本当の弱点はその次だ。第1グラウンドが使えず、近くの競技場も埋まっていたとき、東大阪で受け止める別会場がなかった。
つまり流れはこうだ。第1グラウンドの不使用に、近隣会場の先約が重なり、さらに第2グラウンドが未完成だった。その結果、約600km先まで行くしかなくなった。ラグビーだけを悪者にすると、肝心の三つ目がすっぽり抜けるんです。
一枚の芝を二競技で使う
花園ラグビー場は、その名の通りラグビーの重要会場だ。同時にFC大阪のホームスタジアムでもある。市が所有し、指定管理者が日々の運営を担い、ラグビーとサッカーが日程を分け合う。一枚の芝に二つの競技の予定を書き込むわけだが、いや、カレンダーのマスは気合いでは増えない。
芝は生き物なので、試合と試合の間に休ませる必要がある。大きな大会なら広告の表示も変わる。市の方針は、日本代表戦や全国高校ラグビー大会などの前に、適切な芝生の休養期間を置くよう求めている。これはサッカーを冷遇する規則というより、多目的施設を傷ませずに使うための運用だ。
ここがちょっとややこしい。登場人物の役割が重なっている。施設の持ち主は市。管理する共同体にはFC大阪も入っている。そしてJリーグは、使う予定だったホームスタジアムが空かなければ、代わりを探すのはクラブの役目だとしている。
だから「市が追い出した」「ラグビーが奪った」「クラブだけが悪い」のどれか一つでは説明しきれない。公共施設の共同利用、芝の管理、リーグの日程、クラブの会場確保が接続している。こういう話は犯人を一人にすると分かりやすい。でも、分かりやすさが事実より先に走ると、だいたい迷子になる。
なお、北九州で開いたのはFC大阪が主催側となる「ホームゲーム」だ。北九州が新しい本拠地になったわけではない。順位表ではホームでも、地図では遠征。この二つを分けておこう。
第2グラウンドという安全弁
ここで第2グラウンドが効いてくる。FC大阪と東大阪市は2019年11月、第2グラウンドを整備し、クラブから市へ寄付する基本協定を結んだ。第1グラウンドが使えない日に、地元開催を支える場所になり得る計画だった。
ところが工事は進まなかった。2024年12月の共同発表では、着工できなかった背景としてコロナ禍や建設資材の高騰が挙げられ、クラブは行動が伴わなかったことを謝罪した。市長も市側に一定の責任があると述べている。どちらか一方にだけ赤いバツを付けて終わる話ではない。
改訂された協定では、第2グラウンドに5,000席の個席と大型映像装置を整備し、2028年3月末までに完成させて市へ寄付する。記事は現在の第2グラウンドを約1,300席と報じている。計画が完成すれば、地元開催の選択肢は今より広がる可能性がある。
ただし記事公開時点では、まだ「使える代替会場」ではない。安全弁の設計図はある。でも必要になった日に、まだ箱の中だった。今回の北九州開催は、その時間差をかなり大きな文字で見せたわけだ。
記事には2026年11月着工予定、整備費約15億円といった数字も出てくる。ただ、公開された協定資料から最新の総事業費や支払い条件までは確認できない。ここでは、確認できる約束である「5,000席」「大型映像装置」「2028年3月末」を軸に見た方が安全だ。
1万5,000円で埋まる穴
FC大阪の遠征支援は、中学生以上が1万5,000円、小学生が7,500円。対象は大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山の居住者で、顔写真付きの身分証と移動の証明が必要だった。自家用車の場合は1台最大6万円。現地で試合前後の手続きを終え、確認後に振り込まれる仕組みだ。
ええ、これは対象となる観客の交通費を軽くする。遠いから諦めようと思った人に、もう一度選択肢を渡す施策ではある。クラブが「来てください」だけで済ませず、遠隔開催の負担へ対応した意味は小さくない。
一方で、支援が埋められない穴も多い。往復にかかる時間、対象地域外のファンの負担、東大阪で観戦できない住民、地元で生まれるはずだった飲食や買い物、選手にとってのホームの空気。そして次の試合会場そのものだ。
支援の利用者数と総額は公表資料で確認できないため、成功か失敗かを採点する材料も足りない。旅費支援は北九州への橋を架ける。でも橋の手前に、東大阪の競技場を生やす魔法までは付いていない。
それで何が変わるのか
今回の件で見るべきなのは、「次も1万5,000円を出すか」だけではない。第2グラウンドが2028年3月末までに完成するのか。第1グラウンドのラグビー日程や芝養生と、FC大阪のホーム戦をどの段階で調整するのか。使えない日が分かったとき、近隣の代替会場をいつから押さえるのか。こちらが本丸だ。
ところが、これは東大阪だけの珍事件として片づけにくい。自治体の施設をプロスポーツが使うとき、ホームは住所だけで決まらない。持ち主、管理者、利用者、競技団体が、年間予定と代替策まで組んで初めて「地元で試合ができる」という日常が成立する。
約600kmという距離は派手だ。でも重要なのは距離そのものより、その距離を生んだ手前の仕組みである。観客を運ぶ応急処置と、試合を地元へ置き続ける恒久策は、同じものではない。
まとめ
FC大阪のホーム戦が北九州まで離れたのは、花園第1グラウンドがラグビー大会前で使えず、近くの候補会場にも先約があり、第2グラウンドも完成していなかったからだ。1万5,000円支援は一部の観客の移動費を軽くしたが、会場不足や整備の遅れまでは直せない。
ホームは地図に丸を付けただけでは完成しない。予定表と、使えない日の代替場所までそろって、ようやくホームなんです。