「3社から見積もりを取りました」と聞けば、ちゃんと比べて選んだ感じがします。金額も会社名も別なら、なおさらです。

でも、その3社を選んだ人、各社の見積額を知っていた人、どこが受注するかを調整した人が、実は同じ輪の中にいたらどうでしょう。見積書は3枚あっても、競争は1回も起きていないかもしれません。

公正取引委員会は2026年9月28日、マンションの大規模修繕工事171件をめぐり、施工会社40社と設計コンサルタント2社の計42社を独占禁止法違反と認定しました。今回の本題は、会社数の多さだけではありません。管理組合を助ける立場のコンサルタントが、参加会社と価格情報を動かしたとき、相見積もりがなぜ「比較している外見」だけになるのかです。

住民の修繕費用が不当につり上がった可能性も 関東のマンション大規模修繕めぐり42社が談合 公正取引委員会が独禁法違反を認定 約16億円の課徴金納付命令 | TBS NEWS DIG (1ページ)
住民の修繕費用が不当につり上がった可能性も 関東のマンション大規模修繕めぐり42社が談合 公正取引委員会が独禁法違反を認定 約16億円の課徴金納付命令 | TBS NEWS DIG (1ページ)

関東のマンションの大規模修繕工事をめぐり171件の談合があったとして、公正取引委員会は施工会社など42社に独占禁止法の違反を認定しました。独占禁止法違反に認定されたのは、▼「伊勝」や▼「長谷工リフォーム… (1ページ)

今回の登場人物 ​

  • 管理組合:マンションの区分所有者でつくる組織です。修繕積立金を使い、大規模修繕工事を発注します。今回の競争は、管理組合が条件と価格を比べるためにあります。
  • 設計コンサルタント:建物調査、工事の仕様づくり、施工会社選びの補助、工事監理などを担う専門家です。今回は、この補助役が参加条件や価格情報に関与した点が核心です。
  • 施工会社:実際に修繕工事を請け負う会社です。公取委の認定では、受注予定者を決め、ほかの会社が出す見積額や不参加を調整していました。
  • 受注予定者:見積もりを比べる前から「この会社が取る」と決められた会社です。公正な競争なら、受注者は比較した後に決まるはずですよね。
  • 設計予算:管理組合側が想定する工事金額です。施工会社が先に知れば、「発注者はいくらまで出しそうか」を見ながら価格を組み立てられます。
  • 排除措置命令と課徴金納付命令:前者は違反をやめ、再発を防ぐための命令。後者は違反行為に対して国へお金を納めさせる命令です。住民への返金命令ではありません。

何が起きたか ​

TBS NEWS DIGは9月28日、マンションの大規模修繕工事をめぐる談合について、公取委が42社を独禁法違反と認定したと報じました。対象は、重複を除いて施工会社40社と設計コンサルタント2社です。

公取委が認定した工事は、リノシスが関係する95件と、翔設計が関係する76件の計171件でした。少なくとも2021年秋ごろから行われ、2025年3月4日の公取委による立ち入り検査後に取りやめられたとされています。

42社のうち、排除措置命令を受けたのは38社です。課徴金納付命令を受けたのは37社で、総額は16億3788万円でした。ここは数字が似た顔で並んでいますが、42、38、37はそれぞれ「違反認定」「再発防止などの命令」「金銭を納める命令」の対象数です。同じ名札ではありません。

二つの事案を別々に見ると、リノシス関係は違反37社、排除措置命令33社、課徴金納付命令33社で9億2157万円。翔設計関係は違反20社、排除措置命令18社、課徴金納付命令17社で7億1631万円です。ただし両方に関わった会社があるため、37社と20社を足して「全部で57社」とはできません。全体では重複を除いた42社です。算数より先に、名簿の重なりを見ないといけない場面なんですね。

ここが本題 ​

相見積もりが競争として働くには、少なくとも三つの条件が必要です。

一つ目は、参加する会社が独立して決まること。二つ目は、各社が自分の判断で価格を決めること。三つ目は、発注者の非公開情報や他社の見積額が、特定の会社へ漏れないことです。

今回、公取委が認定した仕組みでは、その三つがそろって崩れていました。見積書が別々の封筒に入っていても、中身を相談して書いていたら、選択肢が3倍になったわけではありません。競争をつくるのは紙の枚数ではなく、それぞれの会社が別々に考え、負ける可能性もある状態です。

競争の入口 ​

順番に見ていきましょう。まず管理組合が、建物の調査や工事仕様の作成、施工会社選びの補助などを設計コンサルタントへ任せます。専門知識が必要な仕事なので、外部の専門家を頼ること自体は自然です。管理組合だけで全部こなすには、宿題の冊数がだいぶ多いからです。

ところが公取委の認定では、コンサルタントが施工会社へ個別工事の情報を伝え、施工会社が受注の希望を示しました。さらに、特定の施工会社とコンサルタントの間に受注を協力する関係ができ、工事ごとの受注予定者が決められました。

次に、受注予定者とコンサルタントが、見積もりへ参加する施工会社を選びます。ほかの会社には、受注予定者より高い価格を示すよう連絡したり、そもそも参加しないようにしたりしました。受注予定者が安く見えるよう、敗者役の数字まで整えていたわけです。

コンサルタントは、受注予定者の希望を参加資格の条件へ反映することもありました。さらに、管理組合が想定する設計予算を受注予定者へ伝えました。売り手が買い手の想定額を知り、競争相手の値札まで分かる。これでは、ぎりぎりまで安くする理由が弱くなります。

公取委の資料によると、受注した施工会社からコンサルタントへ、一般に工事契約額の5%を目安とする金銭が支払われる関係もありました。ただし、全171件でぴったり5%だった、全社が同じ払い方をした、という意味ではありません。ここは「一般に目安とされた」という強さで読む必要があります。

徒競走にたとえるなら、出場者と着順とタイムの目安まで、号砲の前に相談していたようなものです。スタートの音は鳴るし、みんな走っているようにも見える。でも、それを競走とは呼びにくいですよね。

三つのスイッチ ​

仕組みをもう少し分解すると、コンサルタントは競争の手前にある三つのスイッチへ触れられる立場でした。

まずは「参加のスイッチ」です。どんな実績や資格を参加条件にするかで、見積もりを出せる会社は変わります。特定の会社に有利な条件を入れたり、競争力のある会社を参加させなかったりすれば、価格を比べる前に勝負の形が決まります。

次は「価格のスイッチ」です。受注予定者より高い見積額をほかの会社へ出させれば、予定外の会社が安値で勝つことはありません。数字は複数あっても、それぞれが独立に考えた数字ではない。比較表は立派でも、比較する前の配線がつながっていたら、表計算ソフトも困ります。

最後は「情報のスイッチ」です。公取委は、設計金額などの予定額、具体的な選定基準、参加する施工会社の名前、他社の見積額などを、競争へ影響する情報として挙げています。発注者を支える側がこうした情報を特定の施工会社へ渡せば、管理組合のための情報が、その会社の受注に使われかねません。

つまり、今回の問題は「一番安い会社がどこだったか」だけではありません。誰を比較表へ載せるか、各欄へどんな数字を書くか、表の裏側を誰が知るか。その設計自体が操作されていた点にあります。

課徴金は返金ではない ​

では、公取委が命じた16億3788万円は、住民へ戻るお金なのでしょうか。ここはきっぱり分けましょう。課徴金は、独禁法違反を抑止するため、対象会社が国庫へ納める行政上の金銭的不利益です。管理組合や住民への返金ではありません。

だから、16億3788万円を171件で割って「1件当たりの被害額」を出すこともできません。課徴金の計算と、管理組合が本来よりいくら多く払ったかという損害の計算は別だからです。TBSは住民の修繕費用が不当につり上がった可能性を伝えていますが、全171件で同じ割合だけ価格が上がったと認定されたわけではありません。

排除措置命令も返金命令ではありません。違反行為をやめ、同じことを繰り返さないための体制を整えるよう求めるものです。個々の管理組合が支払った工事代金を取り戻せるかは、契約内容や証拠などを踏まえて別に扱われる問題です。行政処分が出たら翌朝に修繕積立金へ自動入金、という便利なボタンは残念ながらありません。

なお、今回伝えられたのは公取委による行政上の認定と命令です。刑事裁判の有罪判決と同じものとして扱ってはいけません。厳しい処分であることと、制度上の種類を正確に呼ぶことは両立します。

比べる前を点検する ​

このニュースがマンション住民以外にも重要なのは、「専門家へ任せたから競争も大丈夫」とは限らないことを示しているからです。管理組合には建築や発注の専門家が常勤しているとは限らず、コンサルタントの知識は頼りになります。だからこそ、助言する人と受注したい会社の利害、そして両者が触れられる情報の境界が大切です。

見るべきなのは、見積書を何枚集めたかだけではありません。参加条件を誰が決めたのか。候補会社とコンサルタントの報酬関係はどうなっているか。設計予算や他社見積額へ誰が触れたのか。比較の結果だけでなく、「比べる前」を確かめる必要があります。

今回、公取委は42社を違反と認定し、38社へ排除措置命令、37社へ総額16億3788万円の課徴金納付命令を出しました。しかし、この数字から各工事の値上がり額や返金額までは分かりません。今後、命令がどう履行されるか、個々の管理組合がどのように対応するかは、確認された事実を一つずつ見る必要があります。

相見積もりを競争にするのは、紙の枚数ではありません。参加する会社、各社が出す価格、発注者側の情報。この三つが独立して初めて、管理組合は本当に「比べて選ぶ」ことができるんです。

まとめ ​

マンションの大規模修繕をめぐり、公取委が認定した今回の違反では、コンサルタントと施工会社が受注予定者を決め、参加会社や敗者側の見積額、不参加まで調整していました。設計予算も伝えられ、見積書が複数あっても、独立した競争の結果とはいえない仕組みになっていました。

課徴金は国へ納めるもので、住民への返金とは別です。被害額も、課徴金総額から機械的には計算できません。覚えておきたいのは、「3社比較」という看板より、その3社が本当に別々に参加し、別々に価格を決めたかどうか。競争は見積書の中ではなく、その前から始まっています。

Sources ​